2015年1 月から11 月の訪日外国人数が約1796 万人で、累計の過去最高を更新したと観光庁が発表した。円安の継続、消費税免税制度の拡充、航空路線の拡大、燃油サーチャージの値下がり、査証の免除や要件緩和などの様々な好条件が重なり、中国の富裕層のツアーや東南アジア各国の修学旅行の需要が急激に増した1年だった。
国別では中国が464万6700人でトップ、2位が韓国で358万6400人、3位が台湾で341万1300人、4位香港、5位はアメリカと続く。行き先としては東京、大阪、京都、北海道などが多く、東京ならスカイツリーや浅草寺、築地市場、大阪なら大阪城やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が各人気ランキングの上位に並び、いわゆる「観光地」が新旧問わず注目を集めていることが分かる。
その影に隠れがちだったが、実はことしは日本国内の旅行客も増えた。8月に主要旅行業者取扱額が16ヶ月ぶりに前年同月比でプラスとなり、現在の最新データである9月も同16%のプラスとなった。盛り上がりの筆頭は新幹線が開通した北陸や関西方面だ。石川県内の旅館の9月の客室稼働率は61.5%で全国トップ。ビジネスホテルの稼働率は9割近くになった。影響は富山や福井などの近隣県にも及んでいる。また関西はUSJやあべのハルカス、兵庫の有馬温泉の人気が高い。
さて2016年、国内外からの旅行者はどのような動向を見せるか。外国人は「地方」「自然」がキーになりそうだ。観光庁が行った訪日外国人動向調査によると、中国人観光客のうち約9割がショッピングをしたと答えた。しかし、「次回の訪日でしたいこと」という質問になるとショッピングという回答は約5割に。代わりに「日本の歴史・伝統文化体験」や「四季の体感」をあげる人が多かったのだ。
和歌山・奈良・三重の3県にまたがる世界文化遺産・熊野古道は「爆買い」とは縁の薄い地域だが、近年外国人観光客姿が目立つようになった。「自然崇拝に興味がある」「日本の信仰について体感したい」という欧米やオーストラリア人が多かったが、中国などアジアからも訪れる人が増えてきているそうだ。
愛媛県の道後温泉旅館協同組合に加盟している施設(35旅館・ホテル)では、15年度の外国人宿泊者数が4~11月末累計で2万人を突破、既に過去最多だった昨年(1万9878人)を上回っている。和服に着替えて風情のある温泉街を散策できることが人気だ。これを受けて道後温泉旅館協同組合が12月に学識経験者や交通事業者を交えて「愛媛・松山・道後温泉発展会議」を開催、長期滞在プランの開設やSNSを使った情報発信など、新たな外国人観光客の誘致に向けて話し合った。
一方、国内はどうか。注目する場所のひとつが16年5月に主要国首脳会議(サミット)が開催される三重県の伊勢・志摩地区だ。鈴木英敬知事も世界に売り込む「千載一遇のチャンス」と話すように、英虞湾の美しい景色や新鮮な海の幸、伊勢神宮といった地域の魅力を伝えようと早くも地元ではPR合戦が始まっている。サミット主会場となる志摩市の英虞湾を望む展望台では、ことしの夏休み期間の観光客数が前年同期比の2.5倍となり、湾内の遊覧船は1.5倍となるなど早くも効果が表れているスポットもある。大和証券<9064>は、開催から5年間に観光客が県内で消費する額を1750億円規模と試算している
もうひとつ注目するべき地域は3月に新幹線が開業する北海道・函館市だろう。東京駅から新函館北斗駅まで4時間以上かかり、駅から函館市街地までの距離もあるため、集客効果を懸念する声もある。しかし北海道二十一世紀総合研究所は、開業にともない道内を訪れる道外観光客が年間で47万人増加すると試算。宿泊や地域内循環を増やすことで、胆振・日高地域で最大2534億1800万円の経済波及効果が見込めるとしている。
東京や京都、大阪といった代表的な観光地は「制覇」した人たちが、次にどこに行くのか。日本国内で、日本人・外国人とも旅行熱が旺盛だった2015年を経た2016年は「地方」に注目したい。(編集担当:久保田雄城)