飲食店の形態が近年、大きく様変わりしつつある。従来の飲食店は、基本的には提供される料理メニューの味やボリューム、ラインナップなどが一番のウリであり、その効果を高める演出的な意味合いで、器や庭、店内の清潔さやムードといったサービスが付加されてきた。
ところが、少し前から飲食店でありながら、メニューの味や内容ではなく、店のムードやこだわりを前面に押し出して、他の店とは違ったサービスを集客の軸にしている飲食店が増えている。これが「コンセプト・カフェ」「コンセプト・レストラン」と呼ばれるものだ。
「コンセプト・カフェ」の代表的なものといえば、やはり「メイド喫茶」だろう。「メイド喫茶」の第一号店は、秋葉原にある「CURE MAID CAFE」だ。2001年、コスプレ衣装製作会社「コスパ」とその関連会社が、落ち着いた雰囲気のある空間と「癒し」をコンセプトに「CURE MAID CAFE」を開店、ウェイトレスの制服をメイド服に統一したことがうけ、社会現象とまでいわれた「メイド喫茶」ブームの火付け役となった。
秋葉原という土地柄と、もともとコスプレ系カフェという地盤があったこと、また、ゲームやアニメ作品の中にもメイド姿のカフェが人気を博していたこともあり、オタク層を中心に爆発的な支持を得たメイド喫茶は、その後も様々な形に姿を変えていく。
メイド喫茶をそのまま居酒屋にした「メイド居酒屋」や、なぜか戦国時代をテーマに店内の装飾を施したメイド喫茶「戦国カフェ」、メイドカフェの男性版「執事喫茶」、さらにマニアックな女性に人気の「メガネスーツ男子カフェ」など、メイド喫茶系のコンセプト・カフェは、誕生から十年経った今でも、未だに根強い人気を誇っている。
また、メイド喫茶系のコンセプト・カフェのほかには、動物と触れ合える「動物カフェ」なども静かな人気を博している。犬や猫と遊びながらお茶を飲んだり写真を撮影したりできる、比較的オーソドックスな「犬カフェ」「猫カフェ」。犬猫好きの人はもちろん、犬や猫が飼いたくても、マンション住まいや単身者という理由で飼うのを諦めている人や、かつてペットを飼っていた人などが、癒しを求めて訪れている。
他にも、鳥カフェや爬虫類カフェなどのニッチなものもあり、中には、タカやワシ、フクロウなどの猛禽類好きが集まる、その名も「鷹匠茶屋」という店まであるのだ。東京都三鷹市にある「鷹匠茶屋」は、店のオーナーが所有するハリスホークやフクロウなどのほか、客が一緒に連れてくるパートナーの猛禽類も集まり、一種独特の雰囲気を醸し出しているそうで、海外からの取材も後を絶たないという。
コンセプト飲食店は他にも、おとぎの国や忍者屋敷、監獄などをイメージしたレストラや、アイドルプロジェクトと連動してファンが集うカフェなども人気を得ているようだ。これらの店舗は、やはり主体となるのは味ではなく、エンターテインメント性なのだろう。非日常空間を演出することで、客を楽しませるとともに、日々のストレス発散や癒しへと繋げているのだ。
考えてみれば、日本に昔からある「お茶屋」などもコンセプト飲食店といえなくもない。浮世の喧騒からはなれ、舞妓や芸妓とひととき、異空間で戯れるのだ。現代のメイド喫茶にどことなく通じるものがある。
コンセプト飲食店の形態はさまざまだが、すべての根底には「癒し」という一つの共通点がある。何に癒されのるかは、人それぞれの趣味や趣向によるものだが、そこにいるひと時の間、日常を忘れることができる。それがストレス発散になるのだろう。コンセプト飲食店の成功は、ストレス過多の現代社会ならではのものなのかもしれない。(編集担当:川端敏明)