「東京五輪までになんとか…」小笠原に空港ができる日はくるのか

2016年02月09日 12:42

画・「東京五輪までになんとか…」小笠原に空港ができる日はくるのか

父島の東約3キロにある東島では昨年、絶滅危惧種の海鳥・オガサワラヒメミズナギドリが繁殖していることが確認された。営巣地が確認されたのは世界初だった。また固有亜種のオガサワラカワラヒワ、アカガシラカラスバトも生息しているが、近年数が減っていると報告されている

 自民党の二階俊博総務会長が先月、東京五輪が開かれる2020年までに東京都の小笠原に空港を完成させたい意向を示した。「丸川珠代環境相と16年に現地を訪問する約束をした」と話し、その際に結論を出すとした。環境保護を訴えて空港建設に否定的な環境省に対して「環境省にも責任がある。省から庁へ戻ってもらわねばならない」と感情的になる場面もあったという。

 東京都小笠原村は東京から約1,000km南に位置し、唯一の交通手段は6日に1便、片道25時間半を要する定期船だ。人口は父島に約2,000人、母島に約500人。動植物が独自の進化を遂げており、11年に世界自然遺産に登録されている。

 この村の空港計画は今に始まった話ではない。東京都は1988年に最初の計画を打ち出している。その後91年に国が整備方針を発表、95年には父島の北隣にある無人島・兄島に空港を建設する計画を決めたが、翌96年に当時の環境庁の反対で白紙になった経緯がある。

 99年から2012年まで東京都知事をつとめた石原慎太郎氏も計画に否定的な見方を示していた。11年には定例会見の中で「洲崎(計画地)に飛行場を作るのは非常に難しい。いいんじゃないですか、人が行かない方が。この日本の中で20数時間かかってしか行けないところがあるのも私は結構なことと思います」と述べている。都はその後も父島で建設の可能性を探っているが、世界自然遺産に登録された小笠原の環境保護と、1千億円を超える事業費がネックとなり、計画は進んでいない。

 空港推進派の主な理由は、急病人の搬送に空港が必要だというものだ。村営の診療所で分娩や手術はできず、緊急の場合には自衛隊に本土への搬送を要請している。村によると14年度は27人が搬送された。要請から病院収容までは平均9時間半かかり、1980年以降では新生児を含む9人(新生児含む)が搬送待ちや搬送中に死亡した。

 一方、反対派は島やその周辺の豊かな自然を理由にあげる。空路開設により人や物の出入りが多くなると、今以上に外来種の影響を受けやすくなるという懸念もある。2015年に環境省が兄島で行った調査では、固有生物で絶滅危惧種のカタツムリ・カタマイマイ属が、外来種のクマネズミに捕食されて激減していることが分かっている。都の担当者は「国と都、村が連携して島の固有生物を脅かす外来種の侵入防止や、駆除対策を強化することが必要」と話している。 

 小笠原諸島に数多くの絶滅危惧種が生息・生育していることは事実だ。つまり環境省は、二階氏の批判とは裏腹に「環境基本計画などを通じ、政府全体の環境政策を積極的にリードする」という自身の仕事をまっとうしているといえる。

 この島々はガラパゴス諸島と同様、過去に一度も大陸と地続きになったことのない海洋島である。一方、入植の歴史は1861年に江戸幕府が出した開拓の通告からと、島の歴史から見れば非常に浅い。それでも「生活」をとるのか。未来を見据えて「環境」をとるのか。どちらにせよ、その代償は大きい。(編集担当:久保田雄城)