政府は南スーダンPKO活動での自衛隊派遣を今年10月末まで、8カ月延長することを決めた。南スーダンで任務にあたっている今の「9次隊」には駆けつけ警護などの「任務追加はない」としている。
9次隊と交代後の「10次隊」については「駆けつけ警護などの新たな任務付与の要否を含め政府内で慎重に検討する」(中谷元防衛大臣)。
中谷防衛大臣は9日の記者会見で、駆けつけ警護をできるようにするには「部隊運用、細部規則、武器使用のROEなど含め、これらを定めた上で部隊訓練を行い、フィードバックして必要に応じ更に検討する必要がある」とした。また「現実部隊への訓練には移行していない」とし、任務付与には「訓練し、習熟し、能力を高めていく必要がある」(中谷防衛大臣)と強調した。
新たな任務付与と同様に気になるのは、南スーダン現地の「治安状況」だ。今月4日の衆院予算委員会で日本共産党の志位和夫委員長と安倍晋三総理ら政府側との間で南スーダンの治安を巡り激しいやり取りがあった。
志位委員長は「南スーダンが内戦状態に陥っている。反政府勢力だけでなく、政府軍によっても、残虐行為が行われている」と憂慮した。中谷防衛大臣は「停戦合意されている」。岸田文雄外務大臣は「武力紛争が発生しているとは考えていない」。安倍総理は「派遣の前提となる参加5原則は満たされている」と断言した。
どちらの判断が適確なのか。筆者含め、現地を知らない一般国民は戸惑う。志位委員長は質問の中で今年1月21日に国連人権高等弁務官事務所と南スーダンPKO――UNMISSが発表した報告書(南スーダンの長期化する紛争下での人権状況)を読み上げた。
それによると「政府軍と反政府軍の2014年1月23日の停戦合意、両者による2014年5月9日の再確認、および(2015年8月下旬の)『和平合意』の実施の一環としての停戦合意にもかかわらず『戦闘は続いている』。紛争当事者たちは礼拝所や病院といった伝統的な避難場所、時として国連の基地まで攻撃しているので、紛争地域で安全な場所はきわめてわずかになった」と治安悪化を紹介した。
特に衝撃なのは2015年8月20日に発表した国連報告書(南スーダンに関する専門家委員会の暫定報告書)に記された政府軍と関連武装グループによる2015年4~7月のユニティ州攻撃の中身。
志位委員長は「本委員会は政府軍が『焦土作戦』をユニティ州全域で実行したことを知った。政府の同盟軍は、村々を破壊し続けた。人が中にいる家屋に火をつけ、家畜その他の金品を略奪し、学校や病院など主要なインフラを襲撃し破壊した。さらに、彼らは民間人を無差別に殺害し、殴打し、拷問にかけた。…子どもたちは特に被害を受けた。…多くの子どもが殺され、7歳の子どもたちを含めレイプされ、拉致あるいは(少年兵として)州内での戦闘を強制された。…本委員会は、少女たちがしばしば両親や地域の人々の前でレイプされ、その後、生きたまま家ごと焼かれた、との証言を聞いた」と報告書の一部を読み上げた。
中谷防衛大臣は9日の記者会見で記者団から、治安は悪化しているのか、との問いに「毎日のように現地から治安や安全状況の報告を受けている。現時点ではジュバは概ね平穏であり、南スーダンのPKO活動地域においては参加のための5原則が維持されており、武力紛争が発生しているとは考えていない」と答えた。
中谷防衛大臣は「現時点で情報を勘案すると、活動地域のジュバ周辺においては平穏であると認識している」と答えたのだ。
しかし、志位委員長が4日の委員会で「1月21日の国連報告書では、昨年もジュバの国連の住民保護サイト周辺で政府軍による襲撃があって、住民が拉致され、殺害される。ジュバのど真ん中で起こっている。そういう報告になっている」と指摘していた。
志位委員長は「自衛隊に安全確保義務や駆けつけ警護といった新たな任務が付与されて(報告のような事態になって)政府軍と銃火を交えることになれば、武力の行使になるでしょう」と警鐘を鳴らした。
一体、自衛隊のPKO活動現場の治安の実態はどうなのか。派遣5原則を満たしているのか、武力紛争は発生していないといえるのか。自衛隊員の安全確保状況も含め、行政府のチェック機関として、国会の各政党会派の安全保障・外交担当者らによる現地視察が必要なのではないか。「10次隊」の派遣までに、是非、視察をし、国民にそのレポートを公表して頂きたいと願う。(編集担当:森高龍二)