北陸新幹線の開業にあわせて開発された新型新幹線車両「E7系」。営業最高速度260km/h。コンセプトは「大人の琴線に触れる『洗練さ』×心と体の『ゆとり・解放感』」で、日本の伝統的な色を使ったデザインや先進の機能を持つシート、温水洗浄機能付便座などが導入されている
昨年3月に開業した北陸新幹線の利用者数が1000万人を突破した。当初の予想よりも速いペースでの達成で、JR西日本の真鍋精志社長は「首都圏と関西の2つの大きなマーケットの間に位置する」ことと、「東京から金沢まで2時間半でアクセスできる」ことが好調の理由だとした。一方で、ブームの弊害や見通しが立たたない延伸計画など、課題も残している。
JRは開業前、北陸新幹線の利用客は「前年の在来線特急の2倍」と予想していた。しかし実際はその約3倍が乗車。関東や大阪から金沢へ来る人だけでなく、北陸の人の動線にも変化を及ぼしている。例えば石川、富山方面から長野の軽井沢やその先の関東・首都圏へ行く人も増えた。双方向で人の行き来が活発になる効果をもたらしているのだ。
好調の理由は「近さ」だけではない。競合する他の交通手段との戦いでも有利なのだ。北陸新幹線の指定席特急料金と乗車券の合計は通常期で14,120円。飛行機は新幹線より時間がかからないが、羽田~小松間の普通運賃は24,890円。高速バスは昼行便で新宿~金沢間が5,000円だが、時間は3倍かかる。
金沢駅の立地の良さも、多くの観光客を集めている理由だ。兼六園やひがし茶屋街、近江町市場や金沢21世紀美術館など、主要な観光スポットが全て駅から2~3km圏内にある。健脚ならブラブラ歩きながら散策できる距離であるし、駅前からのバス便も充実している。
しかしそんな金沢では、懸念も広がっている。ひがし茶屋街周辺の住民は、連日朝から晩まで観光客が押し寄せる光景に「みんな我慢している。静かに暮らしたい」と漏らす。日曜日の来場者が開業前の2.4倍となる6万3000人に膨れあがっている近江町市場では、客が捨てていったゴミが周りの住宅地で目立つようになった。商品の生ものを手に持って写真を撮る客もいる。関係者は「観光客にはいずれ飽きられる。やっぱり地元の客に来てもらいたい」と語る。
不透明なのは観光客の動向だけではない。新幹線の路線自体も今後の展望が見えていないのだ。2022年度末までに金沢駅─敦賀駅間が開業する予定になっており、さらに金沢駅─福井駅間を東京オリンピック開催の20年に間に合わせる案もあるが、与党内で検討されている段階だ。さらに敦賀から西に延ばし、最終的に新大阪までつなげることをJR西は要望しているが、周辺住民や環境保護団体からの反発や疑問が相次いでいる。
真鍋社長も「2年目は観光客に加え、ビジネスなどで利用客を増やすことが課題」と話しており、北陸新幹線の本当の勝負はこれからといえそうだ。 (編集担当:久保田雄城)