止血役にはストレスが必要 理研が解明

2016年06月22日 08:22

 小胞体は細胞小器官の1つで、膜タンパク質、分泌タンパク質、脂質が合成される場である。合成されたタンパク質は、三次構造、四次構造などの立体構造を形成した後、脂質膜でできた袋に包まれて細胞膜や他の細胞小器官に運ばれる。ところが、小胞体で作られたタンパク質の立体構造がうまく形成されなかったり、構造が壊れたりする場合があるという。このようなタンパク質が小胞体に蓄積した状態を「小胞体ストレス」と呼ぶ。小胞体ストレスの状態になると、立体構造形成不全を起こしたタンパク質が凝集しやすくなるため、細胞にとって負担になるといわれている。

 一方、血小板は傷口の止血にとって欠かせない血液成分。血小板は、骨髄中に存在する前駆細胞の巨核球細胞が多数の突起を持つ胞体突起細胞になり、さらに脱核して数千個の細胞質断片になることで作られる。細胞が変形したり、ばらばらになったりする現象は、細胞の自死現象の1つのアポトーシスに共通している。アポトーシスは、発生過程での組織作り、古くなった細胞の消失、がん化する可能性のある細胞の除去など、発生や健康の維持にとって重要な現象である。今回、理化学研究所の研究チームは、血小板形成とアポトーシスの間の類似性に着目した。両者に共通して「カスパーゼ族」と呼ばれるタンパク質分解酵素が働き、細胞形態変化を起こすのではないかと考え、そのメカニズムの解明を試みた。

 研究チームは、培養した巨核球細胞株から血小板ができる過程を調べた。その結果、カスパーゼ3とカスパーゼ4が活性化していることがわかったという。カスパーゼ4はイニシエーターとして、小胞体ストレスに応答して起動し、カスパーゼ3を活性化させてアポトーシスを起こすことが知られている。

 研究チームは、血小板が作られるときにも小胞体ストレスが起きている実験的証拠を得た。また、小胞体ストレスを解消する薬剤やカスパーゼ4の阻害剤があると、血小板が形成されにくくなった。さらに、小胞体ストレスを増強する薬剤によって、血小板形成効率が上がることを突き止めた。これらの結果により、血小板形成のためには小胞体ストレスとカスパーゼ4の活性化が重要であることがわかった。

 この研究は、今後、培養細胞から血小板を大量生産するための技術開発につながると期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)