理研らが肝臓がん300例の全ゲノムを解読 新しい治療法開発に期待

2016年04月18日 08:55

 日本では、年間約4万人が肝臓がんと診断され、3万人以上が亡くなっている。特に、アジアで発症頻度が高く、主な原因は肝炎ウイルスの持続感染である。B型(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)の感染に伴う慢性肝炎から、肝硬変を経て、高い確率で肝臓がんを発症。治療法にはさまざまな方法があるが、その効果は十分ではなく、ゲノム情報に基づく発がん分子メカニズムの解明と新たな治療法や予防法の開発が求められている。

 今回、理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、藤本明洋副チームリーダー、国立がん研究センター がんゲノミクス研究分野 柴田龍弘分野長、十時泰ユニット長、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授、広島大学大学院医歯薬保健学研究院の茶山一彰教授らの共同研究グループは、日本人300例の肝臓がんの全ゲノムシーケンス解析を実施し、それらのゲノム情報を全て解読した。

 共同研究グループは、主にウイルス肝炎を背景として発症した日本人300例の肝臓がん組織と同一患者由来の血液からDNAとRNAを抽出し、それらの全ゲノム情報を最新のNGSと東京大学ヒトゲノム解析センターの生命科学専用スーパーコンピュータ「SHIROKANE」を利用して解読し、肝臓がんに起きているゲノム変異を全て同定した。

 全ゲノムシーケンス解析の結果、1つの腫瘍あたりのゲノム異常は、平均で約10,000カ所であり、塩基が1つだけ変わる「点突然変異」以外に、さまざまな形態の変異を検出することができた。特に、既知のがん関連遺伝子(p16、APC、TERT、CCND1、RB1など)に加えて、新規のがん関連遺伝子(ASH1L、NCOR1、MACROD2、TTC28など)の染色体構造異常や点突然変異を多数発見し、前者は周辺の遺伝子の発現を大きく変化させていた。

 また、HBVとアデノ随伴ウイルス(AAV)ゲノムの肝臓がんゲノムへの組み込みも検出し、これらのウイルスゲノム挿入によって組み込み部位周辺の遺伝子の発現が変化していることを明らかにした。さらに、遺伝子発現や構造に影響を及ぼす可能性のある非コード領域の変異(プロモーター変異、転写因子CTCF結合領域の変異など)や非コードRNAの変異を多数検出した。特に、染色体の先端構造を維持して細胞の不死化や染色体の安定性に関わる酵素をコードしている「TERT遺伝子」においては、ゲノム構造異常、ウイルスゲノムの組み込み、プロモーター領域の点突然変異、コピー数異常といったさまざまなタイプのゲノム変異が集積しており、肝臓がんにおけるTERT遺伝子の発現を恒常的に上昇させていたという。

 このようなゲノム異常は、全ゲノムシーケンス解析を多数のがんサンプルについて行わなければ発見できない知見であり、肝臓がんの発症や進行に深く関与するものと考えられるという。最後に、これら多数のゲノム変異情報を用いると、肝臓がんは大きく6つに分類され、がん抑制遺伝子TP53に関わる遺伝子群に変異がある肝臓がんは予後が不良である等、肝臓がん予後の生存率がこれらの分類によって大きく異なっていることを明らかにした。

 この成果から、がんのゲノム配列情報に基づいた肝臓がん治療の個別化へ発展する可能性がある。さらに、これらゲノム変異を標的とした肝臓がんの新しい治療法や診断法、予防法の開発も期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)