時代は5Gへ向けて進む 富士通研が低消費電力技術を開発

2016年09月10日 11:50

 スマートデバイスの普及に伴い、無線データ通信のトラフィック量は1年で2倍弱のペースで増大しており、2020年頃には2010年比1,000倍になると予想されている。このため、10Gbps超の通信速度を実現する5G移動体無線通信技術の研究が世界各国ですすめられている。

 通信容量を増大させるためには、携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントがカバーするエリア半径を小さくして面積あたりの通信可能な端末数を増やすことや、広い帯域幅を利用するなどの方法がある。

 数GHzの帯域幅を利用可能なミリ波を使った高速通信は、数10m~数100mの間隔で携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントを設置することが想定されるため、無線装置が多数必要となり、無線装置の低消費電力化が重要となるという。

 このように、5Gの超高速通信実現に向け、ミリ波帯の活用と、多数のアンテナ素子を制御してビーム状の電波を各端末に向けるMassive MIMO (Multiple Input Multiple Output)という技術が注目されている。アンテナ素子にはアンテナから電波を飛ばすためにデジタル信号をアナログ変換するD/A回路が必要となるが、ミリ波帯においてアンテナ素子それぞれにD/A回路を一つずつ使用するデジタル方式にした場合、高速なD/A回路が多数必要となり、消費電力が大きくなる問題がある。

 そのため、信号処理の一部をアナログのアンテナ素子部分で行うことで、複数のアンテナ素子に対して一つのD/A回路を接続し、D/A回路数を削減することにより消費電力低減が可能となるが、このアナログとデジタルの両方でビームを生成するハイブリッド方式の場合、端末に向けたビームが互いに干渉し、通信速度が低下するという課題がある。例えば、アンテナ素子数が128、ビーム多重数が8の場合、デジタル方式に比べてハイブリッド方式ではD/A回路を16分の1に削減できるが、多重したビームが互いに干渉するため、通信速度は最大8分の1に落ちてしまうという。

 今回、富士通研究所では、ハイブリッド方式の1つであるインターリーブ型の構成では、不要放射によるビーム間干渉をキャンセルすることが可能であることを発見した。

 インターリーブ型では、1つのD/A回路に接続するアンテナ素子の集まりであるサブアレイ内の、アンテナ素子間隔を広げて、サブアレイの範囲を大きくしている。アンテナは範囲が広いとビームが細くなり、アンテナ素子間隔が広がるとグレーディングローブと呼ばれる不要放射が発生する性質を持っている。サブアレイの素子が1つ置きに配置した場合、A・Bのサブアレイからそれぞれ、A・Bの信号が2方向に電波として放射される。

 ただし、Aは2つの方向でA、Aと同じ位相の電波ですが、Bはアンテナ素子の位置関係によってB、?Bと方向により電波の位相が変わります。この性質を利用し、サブアレイ間で適切な符号化をすることで干渉をキャンセルしてビームを多重することができる。このとき、1つのサブアレイにA + Bの信号を入力し、他方のサブアレイにA ? Bの信号を入力すると、ある方向では(A + B) + (A ? B) = 2Aと、信号Aだけの電波となり、別の方向では(A + B) ? (A ? B) = 2Bと信号Bだけの電波とすることができるという。

 今回、インターリーブ型のハイブリッド方式でサブアレイ間符号化を実装した60GHz帯の試作機を開発して、実測で狭い多重ビームの生成と10Gbps超の高速通信を確認したという。(編集担当:慶尾六郎)