600 ℃でも動作する不揮発性メモリー素子 千葉工大、産総研らが開発

2016年10月13日 08:37

 紙や可燃性の記録媒体に蓄積された情報は、火災などの際に、高温による損壊によって失われてしまう。通常のシリコン半導体を用いたメモリー素子では、高温時に半導体性を発揮するバンドギャップが小さくなり、200 ℃を超える高温では、情報を維持することはできない。つまり、これまでは高温環境下での書き込みや読み込みを行うことはできず、高い温度で記録を守る技術はほとんどなかった。一方で、高温環境下で記録を守る技術は、航空機のフライトレコーダーや自動車のドライブレコーダー、惑星探査機などで希求されている。

 これを受け、千葉工業大学工学部 機械電子創成工学科 菅洋志助教は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)ナノエレクトロニクス研究部門、内藤泰久主任研究員および国立研究開発法人 物質・材料研究機構(物材機構)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 塚越一仁主任研究者と共同で、白金ナノギャップ構造を利用し、600 ℃でも動作する不揮発性メモリー素子をはじめて開発した。

 ナノギャップメモリーは、ナノギャップの空隙に可逆変化するナノピラーが成長し、接近と乖離を行うことで抵抗値を変化させるという。接近時と乖離時にはトンネル電流の抵抗値が大きく変わるので、オンとオフの2状態を作ることができる。ナノギャップメモリーは、金属構造が維持される限り、記憶が保持できる。今回、千葉工大がもつナノギャップ電極の電極金属の結晶性改善技術を用いることで、高温時メモリー機能の維持に寄与するナノ構造の構造変化のメカニズムを解明した。高い結晶性を有しスイッチ動作後の大きな形状変化が起こりにくいことが、今回のメカニズム解明に貢献したという。

 600 ℃で抵抗値をオンとオフを交互に100回切り替えた結果、高温環境下でもオンとオフの抵抗値が分離することがわかった。高温環境下でのナノピラーの形成メカニズムを温度依存性の観点から明らかにした。詳細には、ナノピラー形成時に、ピラーを形成するための原子移動とともに形成を阻害する原子拡散の2つの効果が同時に発生することが判明した。白金ナノギャップは、高温環境下でも原子移動が後者の効果を上回ることができ、メモリーとして動作可能であることが分かった。さらに、この白金ナノギャップメモリーは高温環境下でも室温と同じく安定に情報を維持し、書き込んだ状態も600 ℃で8時間以上保持したという。

 これにより、災害時などの高温下で守ることができなかったデータを保存できるようになることで、安心・安全な社会の構築に寄与することが期待できるとしている。また、データセンターなどで排熱を気にせず使用することができるため、冷却エネルギーを削減でき、省電力への期待も大きいという。しかし、電子素子の高温耐久に関する研究は始まったばかりであり、今後も基礎研究を継続し、実用化に向けた研究および更なる高温に対応できる材料探索を行う方針だ。今回、明らかになったナノギャップメモリーの高温耐久性能は、室温で保存すればさらに情報保持時間が長いことを示唆しており、長期記録メモリーの開発も期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)