円安好感先物買い勢力、利益確定売り勢力、月末のドレッシング買い勢力の三つどもえ。
三連休明けの26日の東京市場は、23日のNYダウが大幅高で1万3000ドル台を回復したものの、フィッチがパナソニック <6752> とソニー <6758> の格付けを「投機的水準」に下げ、カタルーニャ自治州議選の開票で分離・独立派が過半数を超えスペインの債務不安が増し、自民党の安倍総裁が日銀の独立性や日銀の国債引き受けについて「安倍発言」を修正するなど、朝は悪材料が揃っていた。
それでも日経平均は100円も高い9466円で始まった。ドル円は82円半ばで円安一服だったが、ユーロ円が26日のユーロ圏財務相会合でのギリシャ支援の進展に期待して朝方107円台に乗せたのが好材料で、23日の「ブラックフライデー」から始まったアメリカのクリスマス商戦が、全米小売業協会の22~25日の集計で前年比12.8%増と出足好調と伝わったこともプラスだった。
半年ぶりの日経平均9400円台だったが、高値警戒感で前場後半には値を下げ、後場の引け際にさらに一段下げて9400円台を割り、終値は22.14円高の9388.94円だった。海外からの資金流入の勢いは止まらず3日続伸、売買代金は1兆3000億円を超えて市場は活発だったが、安値引けで終わり明日以降に不安を残した。
震災前の株価まで回復したトヨタ <7203> や日産 <7201> 、ホンダ <7267> など自動車株は好調持続。ファナック <6954> や鉄鋼大手など輸出関連銘柄や電力、証券が買われた。ルネサスエレクトロニクス <6723> が値上がり率1位。NEC <6701> 、日立 <6501> 、三菱電機 <6503> も株価を上げた。一方、三菱地所 <8802> 、三井不動産 <8801> など不動産株やJX <5020> など石油株が売られ、ソフトバンク <9984> は大引け間際の日経平均を押し下げた。投機的水準に格下げされたパナソニック <6752> は1円安、ソニー <6758> は16円安。電気料金の12%値上げを申請した関西電力 <9503> は38円高。27日は火曜日でもあり国内外の売り買いの材料に乏しく、東京市場は閑散化して一服感で下げてもおかしくなかった。前日のNYダウは42ドル安で、為替がドル円81円台後半、ユーロ円106円台前半と円高方向に振れていたこともあり、輸出関連株の利益確定売りが入って日経平均始値は17.81円安の9371.13円と、久しぶりに安く始まった。
それでも前場早々、ユーロ圏財務相会合でギリシャの債務削減案について合意したニュースが流れるとユーロが上昇し、日経平均も先物主導で買われてプラスに転じ、9400円台を回復してからは上げ足を速めた。後場に上海市場の軟調が影響して再び9400円を割り込んだが、またまた飛び出した「安倍発言」で直ちに回復。日銀のインフレ目標を2%にせよという内容で、中身に新味はないが円安に振れ、日経平均終値は34.36円高の9423.30円。自民党の安倍総裁の口先に左右される「安倍相場」は、まだ続いていた。
上がった業種は空運、情報・通信、パルプ・紙、銀行、不動産など23業種で、ソフトバンク <9984> は110円高で売買代金トップになり350円高のファーストリテイリング <9983> とともに日経平均を下支えした。関西電力 <9503> は20円高で続伸した。売買高ランキングで建設関連株が1~3位を独占し、値上がり銘柄が1104もあったが、それでも利益確定売りによる輸出関連大型株の下落が目立った。鉄鋼や、トヨタ <7203> 、日産 <7201> 、ホンダ <7267> など自動車株、キヤノン <7751> が揃って下げ、4日続伸とはいえ日経平均はマイナス圏に何度もタッチし、売買高は20億株、売買代金は1兆3000億円を割って、市場のエネルギーはやや陰ってきた気配があった。
28日の東京市場は、15日以来の上昇相場に区切りをつける1日になった。前日のNY市場は89ドル安、朝方の為替はやや円高に戻しドル円82円台前半、ユーロ円106円台前半だった。日経平均は47.82円安の9375.48円で始まり、前場で一時9400円台にタッチする場面もあったが、後場はアジア株の軟調に加えてドル円81円台後半、ユーロ円105円台後半と円高がさらに進行し、下げ幅は100円を超える水準まで拡大した。原因はなんとアルゼンチン国債のデフォルト懸念で、世界のどこから弾が飛んでくるかわからない。日経平均終値は114.95円安の9308.35円と22日朝の段階まで戻った。売買代金はかろうじて大台乗せの1兆158億円で、市場のエネルギーは確実に落ちている。
上昇セクターは円高に強い石油や食品、医薬品など。ファーストリテイリング <9983>やローソン <2651> のような小売、NTT <9432> やDENA <2432> のような情報・通信、オリエンタルランド <4661> のようなレジャー関連といった、いわゆる内需ディフェンシブ系の株価が上がり、前日までとは流れが変わった。下落セクターは輸出関連株の鉄鋼、電機や海運、電力、保険、証券など。新日鉄住金 <5401> 、東芝 <6502> 、ソフトバンク <9984> 、トヨタ <7203> 、ホンダ <7267> 、キヤノン <7751> など大型株が揃って下げ、前日にぎわった建設関連も全体的に振るわなかった。
29日は、自民党の安倍総裁が前夜、講演で追加金融緩和に前向きな発言を行い、ドル円が82円台前半の円安に振れ、前日のNY市場が106ドル高だったことを受けて、日経平均は反発し61.94円高の9370.29円で始まった。前場はもみあいに終始したが、後場は対ユーロの円安の進行を好感して先物主導で9400円台に乗せ、終値は92.53円高の9400.88円。ギリギリで維持するところに「月末のドレッシング買い」の気配なきにしもあらず。午後8時からの党首討論ネット中継の結果を見守りたいという様子見ムードが出て、売買代金は9991億円と10日ぶりに1兆円を割り込んだ。
TOPIX33業種は32業種が上昇。海運、鉄鋼、空運、パルプ・紙や非鉄金属、繊維など広く買われ、自動車もトヨタ <7203> 、ホンダ <7267> 、富士重工 <7270> が揃って上昇。古河電池 <6937> が「金属空気電池」の大容量化技術を開発と報じられて80円高。日経平均寄与度が高いファーストリテイリング <9983> は10連騰を達成した。夜の党首討論をネット中継する「ニコニコ動画」のドワンゴ <3715> は年初来高値更新。下落業種は保険だけだったが、アステラス製薬 <4503> 、KDDI <9433> など内需ディフェンシブ系大型株の中に売られる銘柄が出ている。
30日は月末なので午前8時50分は国内の経済指標ラッシュだった。10月の完全失業率は4.2%で変わらず、有効求人倍率は0.80倍で0.01ポイント低下。家計調査の実質消費支出は前年同月比0.1%低下。10月の全国消費者物価指数(コアCPI)は前年同月と変わらずの99.8で、これらはほぼ市場予測通り。10月の鉱工業生産指数速報値は、市場予測はマイナスだったがスマホ用部品増産が寄与して4ヵ月ぶり上昇の88.1(1.8%増)になった。午後2時に発表された10月の新設住宅着工戸数も前年同月比25.2%増で10%増前後が多かった市場予測を上回り、ポジティブサプライズが二つあった。
前夜、注目の「ニコニコ動画」の党首討論は「野田首相対安倍総裁」の直接対決は見られず特段のサプライズもなく、前日のNYダウは36ドル高で1万3000ドル台回復。為替は前日水準とほぼ変わりなく、ドレッシング買いの月末でもあり利益確定売りの金曜日でもありで、上げ、下げ、横ばいの要素全て入り乱れての東京市場スタートだった。
日経平均は45.89円高の9446.77円と高く始まったが、直後から利益確定売りに押されて上げ幅を急速に圧縮しマイナス圏に沈む。前日終値の9400円をはさんで浮いたり沈んだりしたが、その後は10時30分頃から大きく上昇して9450円、さらに9500円にあと7円少しと迫る勢いを見せた。ドル円82円台後半、ユーロ円107円台に乗せた円安進行を好感して先物買いが入ったが、ドレッシング買いとみられる作為的な気配もあった。午後の日本記者クラブでの党首討論は安倍総裁の発言に新味がなくて市場はほとんど反応せず。後場の大引け間際は「やっぱり金曜日」で利益確定売りが入り、終値は45.13円高の9446.01円だった。続伸して4月27日以来約7ヵ月ぶりの高値にはなったが、始値をわずかに下回る陰線(ローソク足は十字)で、9500円台に届きそうで何度もはね返されて天井がつかえた感があった。売買代金は1兆4245億円と商いは活発だったが値下がり銘柄のほうが多かった。
業種別では98円高のニコン <7731> 、34円高のキヤノン <7751> など精密、商船三井 <9104> 、川崎汽船 <9107> など海運、日立 <6501> など電機といった業種の上昇が目立った。自動車もトヨタ <7203> 、ホンダ <7267> が続伸している。三菱重工 <7011> と日立 <6501> が火力発電部門を新会社に統合すると発表し、三菱重工は終値11円高、日立は終値19円高で盛んに取引された。銀行株は三井住友 <8316> が46円の大幅高で、みずほ <8411> 、三菱UFJ <8306> も上げた。京セラ <6971> は前日の2.29%高と好調。ファーストリテイリング <9983> は11連騰。DENA <2432> は156円高で年初来高値を更新している。下落は国際帝石 <1605> 、石油資源開発 <1662> など鉱業、ソフトバンク <9984> 、NTT <9432> 、NTTドコモ <9437> など情報・通信、新日鉄住金 <5401> など鉄鋼や陸運で、ファナック <6954> 、ソニー <6758> 、東芝 <6502> も下げている。下げた銘柄に輸出関連株もディフェンシブ系も同居しており、円安好感先物買い勢力、利益確定売り勢力、ドレッシング買い勢力三つどもえの混戦の跡がうかがえる。
来週の展望 上昇相場が一服する「踊り場」がくるか?
市場は前半と後半で大違いだった11月が終わり、12月は政治の季節。日本の総選挙は4日告示、16日投票で、東京都知事選と同日投票になる。下馬評は「自民勝利で第二次安倍内閣成立」だが、自民、公明、民主、第三極各党の獲得議席次第で、どんな連立が組まれるか、誰が総理大臣になるか予断を許さない。アメリカの「財政の崖」問題をめぐるオバマ大統領と議会の折衝も大詰めに入る。「選挙の年」の最後を飾る韓国大統領選挙の投票日は19日の水曜日で、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補、最大野党の民主統合党(民主党)の文在寅(ムン・ジェイン)候補の事実上の一騎打ちだが、軍事境界線の北からは北朝鮮のミサイルが12月6日にも発射準備完了かという「地政学的リスク」の報せが久々に聞こえてきた。
選挙戦たけなわで政治主導でも、経済は休まない。週明けは11月30日に発表されるユーロ圏の消費者物価指数や失業率、アメリカの個人所得や個人消費支出、12月1日に発表される中国の11月製造業PMIなどを織り込んでのスタートになりそうだ。中国PMIが50を超えてさらに伸びれば、底入れ確認のプラス要素になる。
国内では3日に法人企業統計と新車販売台数、4日に日銀のマネタリーベースと毎月勤労統計、7日に貿易統計が出る。どれも持ち直しは期待薄。年末なので個人向け復興国債も含めて国債の入札、発行がらみの動きが慌ただしくなる。アメリカは3日にISM製造業景気指数、5日に全米雇用報告(ADP)、7日にミシガン大学消費者信頼感指数速報値、消費者信用残高、雇用統計が発表される。オバマ再選に好影響を及ぼした前月同様、雇用でいい数字が出てくるか。クリスマス商戦の中間統計としては、4日に週間チェーンストア売上高と週間レッドブック大規模小売店売上高が発表される。ヨーロッパはユーロ圏財務相会合が3日、EU財務相理事会が4日、ECB理事会が6日に開かれる。ネガティブな要素が出ると市場は敏感に反応しそうだ。
日経平均は9500円を突破できるかどうかがまず注目されるが、アメリカの「財政の崖」問題処理の行き詰まり、ヨーロッパの債務危機再燃、総選挙の事前世論調査、安倍発言の修正に朝鮮半島の地政学的リスクと、円高・株安を招く潜在的要因が国内外に満ちている。株高のエンジンになっている海外機関投資家の先物買いがいつまで続くかもわからず、売買代金の減少のように市場のエネルギーが落ちて流れが変わる兆候はすでに現れている。総選挙の結果を様子見する動きもそろそろ出てきそうだ。ということで来週は9500円をはさんで一進一退の「踊り場」がくるのではないだろうか。(編集担当:寺尾淳)