産総研が低濃度のウイルスを簡便に検出できるバイオセンサーを開発

2016年12月29日 09:08

 世界の物流や交通規模の拡大、地球温暖化に伴い、感染症の爆発的な拡散や、広範囲にわたる食中毒などのリスクは増大している。身近なところでは、季節性インフルエンザウイルスやノロウイルスなどの感染症の拡大が挙げられるが、麻疹の再流行や、デング熱などのこれまでになかったウイルス感染症の国内上陸も社会問題化している。また、エボラウイルスのような致死率の高いウイルスに対する水際対策もより一層の強化が必要とされている。さらに、鳥インフルエンザや口こう蹄てい疫えきなど家畜のウイルス感染症も問題となっている。ウイルス感染症の予防のため、環境中にあって感染する前の段階で検出できる技術が求められている。

 ごく少数のウイルス粒子の検出には、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)が用いられているが、実験室の清浄な環境でしか使えない。また、イムノアッセイは、ごく少数のウイルスを検知するには感度不足であり、酵素結合免疫吸着法(ELISA)などの高感度なイムノアッセイは夾雑物が検出の妨げになるため、環境水などの試料では感度が出ない、操作が煩雑になるといった課題がある。

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研」)電子光技術研究部門 光センシンググループ 藤巻真研究グループ長、安浦雅人研究員は、下水の二次処理水などの夾きょう雑物ざつぶつを含む試料中のごく少量のウイルスなどのバイオ物質を、夾雑物を除去しないでも高感度に検出できる外力支援型近接場照明バイオセンサー(EFA-NIバイオセンサー)を開発した。

 今回開発したEFA-NIバイオセンサーは、検出対象のバイオ物質に磁気微粒子と光を散乱する微粒子を付着させて、磁石と近接場光により「動く光点」を作って検出を行う。従来法には無い「動き」という識別方法により、夾雑物が多い試料から極めて低濃度のバイオ物質を簡単な操作だけで検出できる。この手法による、都市下水の二次処理水200マイクロリットル(μl)にノロウイルス様粒子約80個を混入(濃度10 fg/ml程度)させた試料中からのウイルス様粒子検出に成功し、洗浄工程を省略しても従来法より数桁高い感度で検出できることが示されたという。

 現在、EFA-NIバイオセンサーの試作機を作製中であり、2017年の春ごろには、片手で持ち運びできる装置が完成する予定である。感染力の強いウイルスの感染予防を目標に、感度を1桁向上させて試料中に数個含まれるウイルスの検出をめざす。また、定量性を持たせるなど性能向上を図る。血中のバイオマーカーや環境中の汚染物質など幅広い分野で微量物質を検出できるセンサーシステムとして実用化を目指す。(編集担当:慶尾六郎)