農産物の水分量は、その品質を決める重要な指標の一つである。例えば米の場合、水分量が低いと割れやすくなり、高いとカビなどの原因となるという。現在、農産物の水分量の測定には、集荷場などに集められた大量の農産物の中からサンプルを抽出し、粉砕して電気抵抗を測定する方法や、サンプルを乾燥させ、乾燥前後の重量の変化から評価する方法などが用いられている。しかし、いずれも破壊検査、もしくは試料の変質を伴う検査であり、サンプル抽出と、その後の測定に手間や時間がかかる。
また、光を用いた非破壊検査も存在するが、測定対象物の大きさや形状、色により測定できない場合があることや、従来の電磁波を用いた非破壊での測定手法では、対象物の大きさや形状の情報が必要であるなどの課題があり、簡便に測定することができなかった。そのため、出荷する農産物全数を短時間で品質検査でき、さらには包装された最終製品の状態でも検査できる手法が望まれていた。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門 電磁気計測研究グループ昆盛太郎主任研究員、堀部雅弘研究グループ長は、電磁波を用いて、農産物の水分量を非破壊で簡便に計測する技術を開発した。
今回開発した技術では、数GHzの電磁波を農産物に照射し、農産物の内部を通過した電磁波の位相の変化量と振幅の変化量との関係から、水分量を測定できる。この手法では、電磁波を照射してから計測結果を得るまでの時間が1秒以下なので、農産物をベルトコンベアなどで移動させながら、ほぼリアルタイムで測定できる。これにより、大量の農産物の水分量を簡便に計測でき、全数検査も可能となる。
さらに、今回の手法で用いる電磁波は、包装用フィルムや発泡スチロール、ダンボールなどを透過するため、包装や箱詰めされた状態でも水分量を計測でき、生産現場での農産物の選別や品質管理が容易になると期待されるという。
今後、様々な農産物について本手法が適用可能なことを実証しつつ、精度に関する検証を行うなど、実用化に向けた取り組みを進めていく。また、今回開発した技術は、測定対象物の内部を伝搬する電磁波の微小な変化を検出するもので、農産物の糖度などの測定や食品などの混入異物の検査への応用も可能であり、今後はこれらへの応用も検討する方針だ。(編集担当:慶尾六郎)