食生活の欧米化に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が年々増加している。NAFLDは先進国において最も頻度の高い肝疾患とされており、日本では成人の1割から3割が罹患しているとも推定されている。
東北大学大学院歯学研究科先端再生医学研究センターの犬塚博之准教授らのグループは、米国のBeth Israel Deaconess Medical Center,Harvard Medical Schoolとの共同研究により、高脂肪食の過剰摂取に起因する脂肪肝発症メカニズムを解明した。
同研究グループはbeta-TRCP1 と呼ばれる、細胞内で不要となったタンパク質を分解・除去する役割を担う分子に着目し解析を進める過程で、脂肪肝発症に関わる新たな分子機構を発見した。細胞には、細胞内で不要となったタンパク質を積極的に分解し、除去するタンパク質品質管理機能が備わっている。その機能に積極的に関与しているのが、ユビキチン・プロテアソーム系と呼ばれるタンパク質分解機構。このユビキチン・プロテアソーム系は、細胞周期、免疫、代謝など様々な細胞機能を調節することが知られている。その中でbeta-TRCP1は、細胞内の幅広い種類のタンパク質に結合し、それらを分解に導くことで、細胞機能の調節に関与すると考えられている。
同グループは、beta-TRCP1の機能解明を目的として、beta-TRCP1の基質の探索を行い、Lipin1と呼ばれる新たな基質タンパク質を同定した。Lipin1は、肝臓において脂肪の消費を促進し、脂肪の合成を抑制する働きが報告されていることから、beta-TRCP1が Lipin1タンパク質を分解することで、肝臓での脂肪合成を促進することが予想された。
実際に beta-TRCP1を培養肝臓細胞で欠損させたところ、Lipin1タンパク質が分解されずに細胞内に蓄積し、それに伴い細胞内で脂肪の合成量が減少することを確認した。この仕組みが実際に生体内でも機能していることを確かめるため、beta-TRCP1を全身で欠損させた beta-TRCP1ノックアウトマウスと野生型マウスにそれぞれ高脂肪食を長期間摂取させ、肝臓 における脂肪の蓄積量を観察した。
その結果、高脂肪食摂取後に野生型マウスで観察される脂肪肝が、beta-TRCP1ノックアウトマウスで抑制されることを発見した。この研究成果により、NAFLDをはじめとした脂肪性肝疾患に対する有効な予防法・治療法の開発につながることが期待されるとしている。 (編集担当:慶尾六郎)