矢野経済研究所では、国内の放射線治療施設に関する調査を実施した。厚生労働省は、全国どこでも質の高いがん診療を提供することができるように、がん診療連携拠点病院や地域がん病院等を整備してきた。一方で、全国344二次医療圏(都道府県が医療計画で定める、入院に係る医療を提供する地域的単位)の内55地域が放射線治療を行える病院施設、一般診療所の存在しない空白地域となっている(2016年10月現在)。2015年4月、厚生労働省はこのような空白地域を埋めるがん診療連携拠点病院などを再編して新たながん診療体制を整備したが、実際に放射線治療施設の存在しない二次医療圏は、へき地、離島だけでなく市行政地域でも存在している。
次に、各都道府県の二次医療圏における高精度放射線治療器の設置状況を調べると、導入されているのは135地域(39.2%)にとどまり、未導入(空白)の二次医療圏が209地域(60.8%)と大きく上回った。また、二次医療圏ごとで高精度放射線治療器の設置台数を比較すると、最も多い地域が東京都区中央部の 13台、続いて大阪府大阪市の12台となっている。特別区・政令指定都市以外でランクインしているところは、兵庫県阪神南(尼崎市、西宮市、芦屋市)と石川中央(金沢市、かほく市、白山市、野々市市、津幡町、内灘町)の二地域であった。このように、放射線治療において、放射線治療施設ゼロ(空白)エリア、高精度放射線治療器ゼロ(空白)エリアとなる二次医療圏は多く存在し、現状ではその地域格差は大きいものと考えるとしている。
調査に関連して、全国の放射線治療を行っている病院、一般診療所157施設に対し、放射線治療に関してのアンケート調査を実施した。まず、年間の実照射人数(新患+再患)について尋ねたところ、「~100人」が30施設(19.1%)、「~200 人」が44施設(28.0%)、「~300人」が30施設(19.1%)、「~400人」が15施設(9.6%)となった。年間「3,000人超」と回答した施設も7施設(4.5%)となっている。
3全国の放射線治療を行っている病院、一般診療所(集計対象 157 件)に、年間の実照射人数(新患+再患)の3年後と5年後の見通しを尋ねたところ、3 年後に「~10%増」は42施設(26.8%)、「~20%増」は24施設(15.3%)、「~30%増」は3施設(1.9%)となり、現況より「プラス傾向」とみている施設は74施設(47.1%)であった。次に、5 年後では「~10%増」は 16 施設(10.2%)、「~20%増」は 30 施設(19.1%)、「~30%増」は10施設(6.4%)となり、現況より「プラス傾向」とみている施設は69施設(43.9%)であった。また、年間の実照射人数(新患+再患)が「~20%増」以上とみている施設は、3年後(32 施設)より5年後(53 施設)の方が多くなっているという。
全国の放射線治療を行っている病院、一般診療所(集計対象157件)に、放射線治療(年間の実照射人数(新患+再患))件数を向上させるための課題を尋ねたところ(複数回答)、「専門医の増員」が70施設(44.6%)、続いて「専門技師の増員」が66施設(42.0%)、「認定看護師の増員」が54施設(34.4%)となり、人員体制の課題が上位を占めた。続いて、「治療器の更新」が52施設(33.1%)、「専門スタッフの習得度UP 」が49施設(31.2%)、「1日の治療件数の増加(治療時間の効率化)」が 47施設(29.9%)となり、作業効率の向上に関する課題があがった。(編集担当:慶尾六郎)