バイク好きの思いが担う、ヤマハ発動機の「大型少量ショートライン」

2012年03月19日 11:00

k120315_041_3

ヤマハ発動機は、昨年8月に磐田市内の別の工場にあった二輪車のエンジン組立ラインを本社工場に移管。エンジンと完成車組立の一貫ラインを構築するとともに、合わせて21ラインあった製造ラインを6ラインに集約している。

 従来、ヤマハ発動機におけるバイクの生産は、部品製造、エンジン組立、完成車組立といった生産機能別に工場があり、それぞれが生産性を追求してきた。しかし、近年は大量生産される新興国向けの製品は海外での生産が中心となり、先進国向けの大型機種を中心とした国内生産は、体制の見直しが必要とされている

 こういった状況を受けて同社は、昨年8月に磐田市内の別の工場にあった二輪車のエンジン組立ラインを本社工場に移管。エンジンと完成車組立の一貫ラインを構築するとともに、合わせて21ラインあった製造ラインを6ラインに集約し、台数の多いモデルの生産を行う分業流れライン、少量の小型モデルを2人だけで組み上げるセル生産ライン、そして、量の少ない大型モデルを組み立てる大型少量ショートラインの3つの生産方式に分けることとなった。

 なかでも独自色が強く、多くの注目を集めるのが大型少量ショートラインである。AGVと呼ばれる自動搬送車に乗った大きなフレームに、5組10人の熟練技術者たちが慣れた手つきで次々と部品を組み付けていく。ヤマハBD製造統括部の原田氏曰く、「高い品質を維持したまま、いかにコンパクトで柔軟な生産ラインを作るかというコンセプトで考案したものです。それまで140mあったラインを45mに短縮し、この工場で製造する全ての二輪車の生産に対応できる柔軟性を持っています」とのことである。

 さらにこのラインにはもう一つ、国内外からの見学者に「さすがヤマハの従業員」「非常にユニークな取り組み」と好評な特徴がある。それが、ライン横の見学者が通る通路に掲示された、各従業員の自己紹介パネルである。そこに貼られているのは愛車とのツーショット写真。実はこのラインで働く従業員のほとんどが二輪車を所有するバイク愛好家なのである。大型少量ショートラインでは、1人の1台あたりの作業時間が非常に長く、作業の多いモデルでは300項目以上の作業になる。そのため、単純に組み付けの上手さだけでなく、高い集中力を長時間維持できることが必要であり、こうした条件を満たすのは、普段から二輪車に乗り、二輪車に深い愛情を持っている従業員が適任なのだという。二輪車に愛情があるからこそ、一人一人の向上心も高く、次々と新しい作業内容を習得していく。そのことが、このラインの特徴である柔軟性を、さらに高める結果を生んでいるのである。

 「機種の切り替えをさらにスムーズにすることで、このラインの特徴である柔軟性と生産性を一層高めていきたい」と大型少量ショートラインの今後の目標について語るMC組立工場生産課岡村氏。技術やシステムがどれだけ進化しようとも、最後にそれを支えるのは人であり、製品に対する熱い思いである。趣味材として大型バイクに高い品質が要求される先進国各国において、コアユーザーを掴んで離さない理由がここにあるのではないだろうか。