多様化の進む人材の採用や育成

2012年03月19日 11:00

 より一層強まる企業のグローバル化により、企業の採用動向が大きく変動している。2010年に英語の社内公用語化で話題となったファーストリテイリングが通年採用を開始し、新卒と中途採用とを区別しない会社説明会を実施する企業が増加するなど、多様化も進んでいる。

 現在、グローバル採用枠の設置とその拡大は、東芝など大手企業を中心に広がっている。従来のグローバル採用と言えば、海外大学に留学中の日本人学生を対象とした採用枠の設置であった。日本語を母国語としながら外国語も扱え、留学経験で培った知識や能力を期待できる留学経験者の採用は、グローバル化を図る企業にとって一番取り入れやすい採用方法と言えるであろう。

 一方、「海外生産」の拠点と考えていた国や周りの新興国はその間、経済的にも目覚ましい発展を遂げ、今や市場として存在するまでに成長した。それにより、現地での消費を目的とした企業経営を迫られている。例えば、富士ゼロックスは2011年度から海外研修に派遣する社員を増加させ、販売会社社員の応募も可能にするなど、グローバル人材育成を強化している。また、博報堂DYホールディングスの博報堂が昨年実施した次世代担う質の高いグローバル人材を常時蓄積・育成・活用するための「グローバル人材プール制度」も注目される。

 さらに、海外売上げ比率が90%を占めるヤマハ発動機は、新興市場でのさらなる二輪車販売増だけでなく、国内販売が中心であったボート・発電機の海外進出も計画。扱い商材が続々と海外比率を高めていく状況下、同社は現地人の幹部ポスト占有率を高めていくだけでなく、入社した事務・技術系社員の100%が海外市場経験を行う制度を新たに設置した。異文化理解に長け、グローバルに課題を認識する能力を持った人材を育成に力を入れることで、自社の求める人材の確保へと繋げる戦略である。同社が考えるグローバル人材に求められるものとは「職務遂行能力、マネジメント力に加え異文化理解力が重要。語学力は重要な要素ではあるが一番ではない」(同社広報宣伝部)。このような取り組みの中から異文化理解に長け、グローバルに課題を認識する能力を持った人材を育成していきたい方針だ。同様の制度は、今後も海外に拠点を持つ企業の間で広がることが予想される。

 平成24年3月に大学を卒業する学生の就職内定率は、昨年12月1日の段階で71.9%。前年同期比3.1%増加と、回復を見せているようにも思えるが、定年年齢の引き上げなどもあり、厳しい状況は変わらない。人口減などの要因から日本国内の需要が縮小することが確実視される中、企業のグローバル化は益々進むであろう。その為、グローバル採用を取り入れる企業は企業規模に関わらず増加することが予想される。一方で、安定志向の広がりから、大手企業への内定を目指す求職者も増加の一途を辿っている。企業のグローバル採用が拡大すれば、海外留学の経験がある日本人へと需要が集中し、そうでない日本人への需要との格差が格段に広がるであろう。その為、就職率を上げる為に躍起となる大学が増え、大学の本分を失念した職業訓練校と揶揄されていることも事実である。企業による人材育成方法や、採用方針、大学の取り組みや求人者の意識など、それらを全て加味した上で、どういった採用方法が最適なのか、しばらくは模索する時代が続きそうである。