しらけムードに飛び込んできた解散・総選挙
10月30日の日銀の金融政策決定会合、11月6日のアメリカ大統領選挙、8日からの中国共産党大会、上場企業の中間決算発表のピークに9日のマイナーSQと、イベントラッシュの2週間が終わって「祭りのあと」のしらけムードを払拭できなかった東京市場は今週、連敗記録を7に伸ばした。企業の通期業績見通しは下方修正が相次ぎ、為替はまた円高に振れ、アメリカの景気回復は確認されたものの中国の景気底入れは不透明でヨーロッパの債務問題は予断を許さず、ファンダメンタルズは依然良くないままだった。
そこへ14日夕刻、「野田首相が16日解散、年内総選挙を確約」というニュースが飛び込んできた。為替は円安、金利は上昇に転じ、リスクオフの空気を一掃。建設、不動産、金融、輸出関連株を中心ににぎわい、日経平均は16日、一気に9000円台に乗せた。国内政治のサプライズで市場がリスクオンし、尻上がりに活況を呈した1週間だった。
12日の日経平均は前場早々8700円を割り込み、81.16円安の8676.44円で6日続落。東証1部売買代金は8000億円を割り、8月24日以来の低水準だった。「様子見」「見送り」の悪い流れは変わらない。円高進行に加え、朝方に発表された7~9月期の実質GDP成長率がマイナスでムードを弱気にした。上がったセクターはJAL <9201> など空運、海運に、自社株買いを発表した横浜銀行 <8332> など地銀上位ぐらいだが、それでも値がさ株のソフトバンク <9984> 、京セラ <6971> が上がって日経平均を下支えした。輸出関連株から内需株まで幅広く売られる中、決算内容が悪かった横浜ゴム <5101> などゴム、午後1時に通期の最終利益見通しを下方修正した清水建設 <1803> 、三菱地所 <8802> 、三井不動産 <8801> など建設・不動産、保険の下落が目立った。三菱電機 <6503> 、NTTドコモ <9437> 、高島屋 <8233> 、電通 <4324> など東証1部87銘柄が年初来安値更新。自動車株は決算の最終利益31%と好調だったスズキ <7269> やマツダ <7261> は買われたが、トヨタ <7203> 、ホンダ <7267> 、富士重工 <7270> は株価を下げている。
13日の日経平均は8700円台を回復して始まった。ギリシャ議会が予算案を可決してEUの支援条件が整い、NYダウのほぼ横ばいが2日続き、朝方、ドル円が79円台後半の円安に振れたことなどを好感したが、6日続落の後で「そろそろ上がるだろう」という自律反発の色彩も濃かった。しかし前日比プラス水準は前場の2時間足らずで終了。為替が円高に戻ってユーロ円は100円台になり、日経平均は8600円割れ寸前の8619円まで下落した。先物の利益確定なのか後場の引け際に買い戻されたものの、終値は15.39円安の8661.05円と7日続落で終わった。東証1部売買代金は9000億円割れだったが、TOPIXは-0.02と底堅かった。
セクター別では円高に強い石油・石炭、電機・ガス、パルプ・紙や、工業、金属製品、ゴム、保険、機械、小売りなど値上がり業種が33業種中19業種もあり、通期業績予想を減額修正したオリンパス <7733> も悪材料出尽くしで73円高、ファナック <6954> 、京セラ <6971> 、ソニー <6758> も上げている。値下がりセクターは金融、海運、医薬品、食品、情報・通信などで、三菱電機 <6503> とNTTドコモ <9437> は年初来安値を連日更新した。前場はプラスだったファーストリテイリング <9983> は70円安で終えている。日立電線 <5812> を日立金属 <5486> が買収するニュースで日立電線だけに買いが集まった。
14日の日経平均は、前場は前日比でプラスとマイナスを行ったり来たりする小動きだったが、前引けでは久々のプラス。後場は為替が円安に振れたおかげでおおむねプラス水準で推移し、終値は3.68円高の8664.73円となり、先週からの続落は7日でストップした。しかしTOPIXは-0.15で続落。高値と安値の差が約27円しかなく、東証1部売買代金は8000億円を割るなど株式市場は低体温状態が続いた。
上昇したセクターはオリコ <8585> などその他金融や三菱地所 <8802> 、三井不動産<8801> など不動産、証券で、通信株のソフトバンク <9984> 、KDDI <9433> 、NTT <9432> は揃って上昇。下落したセクターはプリウスなど約152万台のリコールを発表したトヨタ <7203> など自動車、石油、鉄鋼、非鉄金属、ゴム、銀行だった。新聞が「インテルが出資する」と報じたシャープ <6753> は11円高の163円で引けた。消費者金融のアイフル <8515> は72円高で年初来高値を更新し、東証1部の値上がり率、売買高、売買代金の三冠王だった。
14日午後に野田首相が「16日に衆院を解散する」と表明。解散・総選挙になれば政権交代は確実とみられる。自民党政権下では日銀に金融緩和圧力がかかる一方で日中関係は緊張すると予想され、株価の方向感は見定めにくいが、解散・総選挙は「政界の閉塞感打破」という意味では好材料。業種別では自民党が国土強靱化基本法案を提案しインフラ整備で景気浮揚を図るという思惑から建設、不動産、金融などが物色されると見込まれた。
日経平均は8700円台を回復して始まり、8700円を割ってもすぐリバウンド。後場は安倍総裁の「2%、3%のインフレ目標を設定して無制限に緩和していく」という発言で為替はドル円が81円、ユーロ円が103円に迫り、それを好感して先物中心に買われ8800円台に乗せた。終値は高値引けの8829.72円で、164.99円上昇。海外の機関投資家から大量買いも入って売買代金は前日の約6割増の1兆2484億円となり、まさに「リスクオン」が点火された日だった。
注目の「自民党関連銘柄」建設、不動産、金融セクターは全て上昇。大成建設 <1801> 、鹿島 <1812> 、三菱地所 <8802> 、三井住友FG <8316> などに買いが集まった。円安で輸出関連株も好調。155円高のトヨタ <7203> 、ホンダ <7267> など自動車、新日鉄住金 <5401> など鉄鋼の他、原発再稼働に期待して関西電力 <9503> など電力、野村HD <8604> など証券、保険も上がっている。売られた銘柄に光通信 <9435> 、ソフトバンク <9984> 、NTTドコモ <9437> 、グリー <3632> など情報・通信、セブン&アイHD <3382> 、ヤマダ電機 <9831> など小売、食品といったディフェンシブ系銘柄が多かったのも、リスクオンを象徴している。
ソニー <6758> は前日発表された転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行が1株当たり利益の希薄化懸念で嫌気され、一時98円安の772円まで売り浴びせられ、32年半ぶりの安値水準を記録した。
為替は16日朝方、安倍晋三自民党総裁が日銀にプレッシャーをかける金融緩和発言を連発したためドル円81円台前半、ユーロ円103円台後半に円安進行。前日の株価の上げっぷりが派手だった反動、ユーロ圏GDPの2期連続マイナス、NYダウの28.57ドルの下げ、政府の月例経済報告の景気判断4ヵ月連続引き下げ、利益確定売りが多い金曜日など、安く始まってもおかしくない要素が多くあったが、「安倍発言効果」「円安効果」は抜群で、日経平均は始まって早々に前日比80円を超える上昇で8900円台を回復。さらに前場引け際には一時9000円を突破した。後場も勢いは衰えず終値は194.44円高の9024.16円で、9営業日ぶりの大台で今週の取引を終えた。
海外機関投資家の先物買いが続き、一部投資家が円高を見越した輸出関連株の信用売りポジションを急いで解消したため現物の買い注文も膨らみ、東証1部売買代金は1兆5050億円と6割増だった前日のさらに2割増になった。NYや上海が株安でも、為替が午後少し円高に戻しても、人呼んで「安倍相場」は世界最強で向かうところ敵なし、だった。
前日に引き続き、建設、不動産などインフラ関連が買われ、銀行や証券が金融緩和期待で続伸し、自動車、電機、鉄鋼など輸出関連株は一段高になり、食品、小売などディフェンシブ系銘柄が売られる流れだったが、値上がり銘柄が全体の72%に及び、時価総額の大きい主力株に買いが集まった。大和ハウス <1925> 、ダイキン <6367> 、富士重工 <7270> 、日野自動車 <7205> 、三井不動産 <8801> などが年初来高値更新。トヨタ <7203> は売買代金517億円でランキング1位。前日の155円高に続きこの日は110円高で、2日間で8.66%上がった。
大引け後に衆議院が解散し、政界は12月16日の総選挙投票日に向けて走り出した。
来週の展望、下値は堅くても9000円台の維持は微妙か
日経平均が2日で4.1%、359円も上がった15、16日は「いくら何でも上がりすぎ」というのが市場筋のおおむねの認識。アメリカの「財政の崖」、ヨーロッパの債務問題、不透明な中国の景気など、海外の状況は何一つ改善されていないのに、東京市場だけが独歩高になっていた。9000円の大台に乗せた達成感、区切り感もあり、来週は利益確定売りから入りそうだ。それでも相場の地合いは良いので建設、不動産、金融あたりが支えて下値は堅く、ヨーロッパあたりが出所のサプライズでもない限り、終値で100円を超えるような下げ幅の日はないだろう。
ただ、日経平均が9000円前後を維持したまま熱気が冷めて売買高が徐々に減っていき、NY市場が低調なままだと、日本株独歩高への「高所恐怖症」的な心理が台頭してきて、何かをきっかけに一気に値崩れする恐れがある。その点で20日のユーロ圏財務相会合、22~23日のEU首脳会議の前後は要注意だ。ギリシャへの追加融資に水を差す政治家の発言や、スペインのどこかの州に問題が浮上するなど、大勢には影響のないささいなニュースでもユーロが売られたら怖い。好調な輸出関連株がストンと落ちかねない。
来週は23日が「勤労感謝の日」の休日なので東京市場の営業日は4日間。国内では20日に百貨店売上高、21日に貿易統計、22日にスーパー売上高が発表されるが、良い話は聞けそうにない。19、20日には日銀金融政策決定会合が開かれ、20日に日銀の白川総裁の記者会見があるが、3ヵ月連続の追加金融緩和はなく現状維持という見方が有力。国内政治のサプライズで、日銀の追加金融緩和期待など、どこかに飛び去ってしまった。
アメリカでは19日に中古住宅販売とNAHB住宅市場指数、20日に住宅着工件数が発表され住宅市場の回復ぶりを確認できる。21日にはミシガン大学消費者信頼感指数と新規失業保険申請件数が出る。ヨーロッパでは22日にユーロ圏総合景気指数、ユーロ圏消費者信頼感指数が、中国では22日にHSBC製造業PMIが発表される。
22日はアメリカでは「感謝祭」の休日。翌23日の「ブラックフライデー」から、いよいよ今年のクリスマス商戦がスタートする。26日の「サイバーマンデー」ともども商品がどれだけ売れたかに注目が集まり、速報値がNY市場に影響を及ぼす。(編集担当:寺尾淳)