遺伝子の発現を特異的に抑制するRNA(リボ核酸)干渉法は、遺伝子の機能を調べる方法として広く利用されており、近年ではその高い有効性と特異性を活かして医薬品への利用が検討されている。一方で細胞は、個体が恒常性を保つための重要な仕組みとして、自殺(細胞死)するための内在的な機構を持っている。例えば、DNA傷害のような過剰なストレスを受けた場合、自らを消化して存在を抹消する。この内在的な機構には、細胞内のミトコンドリアが関わっており、その膜電位の消失がアポトーシスを誘導すると考えられている。
東京工科大学大学院バイオニクス専攻の杉山友康教授らの研究グループは、プログラムされた細胞死(アポトーシス)を、がん細胞に誘導する新しい核酸の創製に成功した。
研究では、様々なDNA配列の人工核酸を、ヒト結腸がんの細胞株HCT116に作用させ、ミトコンドリア膜電位の消失を誘導する人工核酸を探索した。その結果、効果を示す核酸が約15万種類の中から1つ発見。この核酸はヒトゲノム配列と比較して完全一致しない塩基配列であったが、研究グループはその標的遺伝子の特定に成功し、未解明の膜タンパク質「TMEM117」であることを突き止めた。TMEM117の遺伝子発現抑制は、細胞内の活性酸素種レベルを上げ、ミトコンドリア経路のアポトーシスを誘導し、がん細胞株の増殖性を著しく抑制した。同様の効果は、ヒト子宮頸がんの細胞株HeLaでも確認された。またTMEM117の機能として、がん細胞(特に小胞体に過剰なストレスを受けた時)がアポトーシスする反応経路に関わることが示されたという。
研究グループが新たに発見したTMEM117を標的としたRNA干渉は、小胞体ストレスによるミトコンドリア膜電位の消失を伴うがん細胞のアポトーシスを誘導するもの。今後、TMEM117の機能解明が進むことで、がん細胞死を誘導する核酸医薬品の開発が期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)