■減損損失が軽くなれば、最終損益は浮上する
5月9日、総合商社大手6社の2017年3月期本決算が出揃った。
前期の2016年3月期は原油、石炭、鉄鉱石、銅など資源価格の下落が続き、双日を除く5社の減損損失は合計1兆2000億円を超え、三井物産と三菱商事が最終赤字に陥るなど、業績の資源部門への依存度が高い大手商社は辛酸をなめた。しかし2017年3月期は資源価格が下げ止まって持ち直し、減損損失も急減し業績は急回復をみせている。前の期より円高に振れた影響もあって6社とも減収だったが、三井物産と三菱商事は1年で最終黒字に転換し、利益首位の座を1期限りで三菱商事に譲った伊藤忠商事もその最終利益は2期ぶりに過去最高益を更新した。大手商社の利益の水準は3期前の2014年3月期に近いレベルまで戻っている。
損益計算書が減損損失計上にまみれた「暗黒時代」は去った。6社とも最終増益で揃っている2018年3月期決算や新しい中期経営計画を見ると、苦境を乗り切るための後ろ向きの対策から、積極的に投資する未来志向の経営計画への切り替えようとする図式が浮かび上がる。もっとも、三井物産の安永竜夫社長が「資源価格に頼らない体制が重要」と話しているように、金融や機械、生活関連、情報・通信、医療など非資源部門でも十分な収益力をつけ、全体の業績が資源価格や為替レートに左右されにくい安定的で強靱な企業体質を築いて「黄金時代」を迎えるまで、道のりはまだまだ遠い。
■三井、三菱の痛恨の最終赤字は1年で解消し大幅な黒字を計上
2017年3月期の実績は、三井物産<8031>は国際会計基準(IFRS)で、収益は8.3%減の4兆3639億円、税引前利益は約18.9倍の4607億円。当期損益は前の期の669億円の赤字から3261億円の黒字に転換。最終当期損益は前の期の834億円の赤字から3061億円の黒字に転換した。最終赤字は1期だけで解消したが、年間配当は9円減配の55円。
大手商社で資源部門の比率が最も高いため、前期の赤字決算の元凶になった石炭や鉄鉱石などの資源価格が持ち直した。金属資源事業は前の期の1625億円の赤字から、1380億円の黒字に反転している。
三菱商事<8058>は国際会計基準(IFRS)で、収益は7.2%減の6兆4257億円、税引前損益は前の期の928億円の赤字から6014億円の黒字に転換、当期損益は前の期の1326億円の赤字から4800億円の黒字に転換、最終当期損益は前の期の1493億円の赤字から4402億円の黒字に転換した。最終赤字は1期だけで解消し、前期は伊藤忠商事に譲った総合商社利益トップの座に返り咲いた。年間配当は30円増配の80円。
資源市況の低迷で数量も金額も下押し圧力がかかったが、前期の金属事業の巨額の減損損失は解消した。機械事業の船舶で減損損失は残っても利益はしっかり確保し黒字化。オーストラリアの石炭事業も国際価格の上昇に加え生産コストの抑制で採算が好転した。黒字化したノルウェー、チリでのサケ、マス養殖事業も好調に推移している。垣内威彦社長は「減損損失や資産入れ替えに伴う損失などで合計1370億円の損失を出しながら4400億円の純利益を計上できたことは評価している」と述べている。前の期はチリの銅鉱山などで約4300億円の損失処理を実施したが、止血は早ければ早いほど良いということ。
伊藤忠商事<8001>は国際会計基準(IFRS)で、収益4.8%減、営業利益27.4%増、税引前当期利益54.9%増、当期純利益35.5%増、最終当期純利益46.5%増で前の期の減収2ケタ増益から減収2ケタ増益に変わり、最終利益は2期ぶりに過去最高益を更新した。年間配当は5円増配の55円。
アメリカのドールから買収した青果物事業は、前の期には200億円近い減損損失を計上したのが83億円の黒字事業に変身し、それが寄与し食料部門の純利益は2.8倍にふくらんだ。ユニーGHDと経営統合したコンビニのファミリーマートも増益に貢献するなど、非資源分野のシェアが大きい伊藤忠ならではの強みが大きく効いている。利益シェアが約1割程度の資源部門も鉄鉱石市況の好転が寄与して損益改善。戦略的な資本業務提携を結んだ中国のCITIC(中国中信集団)を連結対象としたことも利益を押し上げた。
住友商事<8053>は国際会計基準(IFRS)で、収益0.3%減、税引前利益52.1%増、当期利益111.4%増、最終当期利益129.2%増の減収、大幅増益。最終利益は前の期の約2.3倍の1708億円に増えた。しかし年間配当は50円で据え置き。資源・エネルギー部門の収益はチリの銅事業で減損損失を計上したものの、石炭価格や亜鉛価格の市況が回復して大きく持ち直した。鋼管事業は原油価格の下落でふるわなかった。非資源部門ではケーブルテレビなどメディア・生活関連事業と不動産事業を合わせた利益が前期比で約2割増の770億円と好調で、全体の利益を押し上げた。
丸紅<8002>は国際会計基準(IFRS)で、売上高8.8%減、営業利益12.1%減、税引前利益121.1%増、当期利益130.7%増、最終当期利益149.5%増。2ケタ減収減益の前期に続き減収、営業減益だが、税引前利益、当期利益、最終当期利益はそれぞれ3ケタの大幅増益で約2.2~2.5倍という決算内容だった。年間配当は2円増配して23円。
エネルギー・金属資源事業はメキシコ湾の原油・天然ガス田の権益について減損損失が発生したが、非資源分野は輸送機事業、生活産業事業が好調で、2013年に買収し減損損失も出していたアメリカ第3位の穀物メジャー、ガビロンはコスト削減で採算が改善して増益に。情報関連事業では株式売却益が発生し、生活産業事業も伸びた。
双日<2768>は国際会計基準(IFRS)で、売上高6.5%減、営業利益76.5%増、税引前利益30.9%増、当期利益20.8%増、最終当期利益11.6%増の減収、2ケタ増益。前の期と比べると営業利益、税引前利益、当期利益は減益から増益に変わり、最終利益は連続増益だった。年間配当は8円で据え置き。
資源分野の石炭・金属事業は中国向けの発電用石炭価格の上昇でオーストラリアの石炭子会社の業績が改善。原油・天然ガス関連の減損縮小も寄与した。航空産業・情報事業は航空機の取引が増加。情報関連子会社さくらインターネットの株式売却益も加わり、食料事業のブラジルの穀物集荷会社について計上した128億円の損失をカバーした。
■資源分野も非資源分野も揃って増益に寄与する今期見通し
2018年3月期の通期業績見通しは、三井物産<8031>は4.5%増の最終当期利益3200億円だけを公表している。そのうち資源分野は1800億円で、非資源分野は1400億円の見込み。予想年間配当は5円増配の60円。引き続き鉄鉱石や原油など資源価格の復調を想定し、鉄鉱石の市況回復で金属事業、原油価格や天然ガス価格の市況回復でエネルギー事業の増益を見込んでいる。想定為替レートはドル円110円としている。
本決算と同時に2020年3月期が最終年度になる中期経営計画を発表した。最終年度の業績目標は最終当期利益4400億円で最高益を更新する。2017年3月期と比べて44%の増益。その内訳は資源分野で2400億円、非資源分野で2000億円で、55%対45%のバランスになる。「基礎営業キャッシュフロー」6300億円、ROE(自己資本利益率)10%の数値目標も設定し、それぞれ2017年3月期は4948億円、8.6%だった。松原圭吾最高財務責任者(CFO)は、資源市況は今期も、中期的にも供給過剰の状態が継続して短期的な価格上昇が見込みにくく、数値目標は「相当保守的な計画」だと説明している。
中計の中核分野は資源分野の金属資源・エネルギー事業と、非資源分野の機械・インフラ事業、化学品事業で、輸送、医療関連、農業、消費者向けサービスなどのビジネスでも収益の柱を育てたいという。
三菱商事<8058>は最終当期利益(連結純利益)だけを公表し2.2%増の4500億円を見込んでいる。年間予想配当は80円で据え置き。想定為替レートはドル円110円。金属事業では減益を見込みながら、船舶の減損損失がなくなる機械事業、化学品事業が利益を伸ばし全体では増益を確保できる見込み。非資源部門で不動産やリースなどとともに今期期待しているのが、前期にTOBで子会社化したコンビニのローソン。「ローソンの収益向上のために、やれることは全てやる」(垣内社長)と、経営資源を惜しまず投入する構えを見せている。
伊藤忠商事<8001>は収益19.9%増、営業利益6.4%増、税引前利益7.2%増、当期純利益15.6%増、最終当期純利益13.6%増の4000億円という増収増益見通し。予想年間配当は9円増配の64円を見込んでいる。想定為替レートはドル円110円。今期も食料、繊維、機械、流通、住生活、金融など非資源部門が利益の88%を稼ぎ出して業績向上のエンジンになる見通しで、岡藤正広社長は「懸念材料は正直、思い浮かばない」と、かなりの自信ぶり。それでも今期は中期経営計画の最終年度で、「かけふ」(稼ぐ・削る・防ぐ)を合言葉に経営改革を推進して連続最高益更新を目指す。
住友商事<8053>は今期から最終当期利益だけを公表し、34.6%増の2300億円を見込んでいる。予想年間配当は50円で2期連続の据え置き。配当性向は2016年3月期83.7%、2017年3月期36.5%、2018年3月期27.1%と下がる一方。株主総会で株主からイヤミの一つも頂戴するか? 今期の資源価格は鉄鉱石も亜鉛も銅も市況改善を見込んでおり、資源・エネルギー部門は増益見通し。鋼管事業も収益を立て直せるとみている。
丸紅<8002>は最終当期利益だけを公表し、9.4%増の1700億円を見込んでいる。予想年間配当は2円増配して25円。海外のパルプ事業など素材分野が伸び、エネルギー事業は赤字縮小、金属資源事業は増益の見通し。前の期の一過性の減損損失が解消し、金属資源事業の純利益は前期比で3倍弱を見込む。
本決算と同時に現在の中期経営計画の数値目標の下方修正を発表した。目標年度の2019年3月期の最終利益目標を2500億円から2000億円に引き下げ、中計3ヵ年間の投資計画を最大1兆円から5000億円に半減させた。負債削減による財務体質強化が最優先課題になっていることが背景にあり、国分文也社長は「金融環境や資金調達環境は悪化すると想定する。低金利で資金調達ができる環境は変化する」と、気を引き締める。
双日<2768>は売上高9.5%増、営業利益6.6%増、税引前利益19.1%増、最終当期利益22.7%増の増収、最終2ケタ増益を見込む。予想年間配当は2円増配して10円。資源分野の採算改善、食料事業の黒字化、海外での自動車事業の伸び、減損損失の解消を想定。佐藤洋二社長は今期の見通しについて「アメリカは安定成長。ロシアやタイで自動車販売が順調に伸びる」と話している。(編集担当:寺尾淳)