iPhoneXが変える、手の中の未来。日本の電子部品企業にも追い風。

2017年09月23日 11:21

ローム0921

新型iPhoneに搭載されることで注目が高まっているワイヤレス給電の国際標準規格「Qi(チー)」。日本では2016年に世界に先駆け、ロームが15W級ワイヤレス給電Qi認証取得済みリファレンスボードの販売を開始している

 日本時間の9月13日(米国時間12日)に米Apple社から発表された新型iPhoneは、日本でも大きな話題を巻き起こしているが、電子部品関連企業にとっても新たなビジネスチャンスの契機となりそうだ。

 今回発表されたのはiPhone8 / 8 Plus / Xの3機種。中でも、米Apple社がiPhoneの最上位機種と位置付けたiPhoneXへの注目度は高い。シリーズ最大となる5.8インチの有機ELディスプレイを備えつつも、本体サイズはiPhone 8 Plusよりもコンパクトに収め、iPhoneの特徴でもあったホームボタンも撤廃した。すべてが画面というシンプルかつスタイリッシュなフォルムが、新しい時代のスマートフォンを象徴している。そして、もっとも期待されている新機能は、顔認証(Face ID)だ。単純な画像検知ではなく、メガネを着用したりメイクを変えたりしてももちろん、写真やお面、顔がそっくりな双子などでも正しく認証・識別できる精度であるというから驚きだ。アプリの購入やApple Payの支払い、個人認証などにおいても、今後はFace IDが活躍することになるだろう。

 機能が増えると、搭載する部品もそれだけ多くなり、スマホ内部の構造はより精密に、複雑化する。その一方で、軽量・薄型化への欲求も同時に満たさなければならない。しかし、ここに日本の電子部品企業の活路がある。

 新型iPhoneの発売に市場は早速反応しており、村田製作所や太陽誘電、TDKなどの米Apple社のサプライヤーは8月から軒並み堅調だ。新製品発表後は材料出尽くし感から利益確定売りに流れたものの、日本の電子部品メーカーへの期待は相変わらず高く維持されているため、株価は依然、追い風の傾向にある。

 企業側もこのチャンスを活かすべく、すでに行動を開始している。

 例えば、村田製作所は有機EL端末の普及を見据え、富山市の富山村田製作所をはじめとする各事業所で、回路基板内を3次元に自由に配線できる樹脂多層基板「メトロサーク」の増産を始めている。

 また、スマホで重要な位置を占めるハプティックデバイス(触覚デバイス)の分野においては、現在参入している日本電産や中国のAACテクノロジーズに加え、小型精密部品で評価が高いアルプス電気も参入の動きを見せている。同社は、スマホカメラの手振れ補正などに使われるアクチュエーターの世界シェアの約80%を保有していることからも注目されており、今後、デュアルカメラの普及によっては、アクチュエーターの1台当たりの搭載数が増加することも見込まれている。

 そして、今回の新型iPhoneは初めて非接触充電を採用し、ワイヤレス給電の国際標準規格「Qi(チー)」に対応したことから、同規格に対応した送受信用制御ICの分野で先駆的な立場にあるロームも、業績拡大が期待されている。同社は2015年にはすでに15W級のQi規格に準拠する業界初のワイヤレス給電制御ICを開発し、タブレットPCなどでワイヤレス給電を実現。スマートフォンなど5Wクラスの電子機器においても、従来規格の2倍の速度で充電が可能になったという。さらに翌16年には、世界初となる15W級ワイヤレス給電Qi認証取得済みリファレンスボードの販売を開始している。IC単体はもちろん、ワイヤレス給電に必要とされるコア技術のすべてをグループ企業内で網羅していることも大きな強みだ。米Apple社がQiに本格的に参画したことで、インフラ整備とアクセサリ数の爆発的な増加が予想されており、ワイヤレス給電市場の活性化に期待がかかる。

 米Apple社のWebサイトに記されたiPhoneXのキャッチフレーズは「未来をその手に」。日本の電子関連企業の未来も、小さな手のひらの上にあるのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)