厚生労働省は11月7日、9月分の毎月勤労統計調査の速報を発表した。これによると一般に賃金とされる「きまって支給する給与」のうち「所定内給与」は全産業・全就業形態の平均として24万2143円で前年比0.7%の伸びとなった。「所定外給与」は1万8913円で0.9%の高い伸びとなり人手不足感を反映しているといえる。就業形態別にみると一般労働者の全産業における「所定内給与」は30万7217円で前年比0.2%の増加であった。パートタイム労働者の「所定内給与」は9万3048円で前年比1.2%の増加と高い伸びを示している。
全産業の平均としての名目値は0.7%のプラスであるが、業種によって大きなバラつきが見られ、生活関連サービス等で前年比5.2%の増加、教育、学習支援業で同2.6%増、鉱業採石業等で同2.2%増と高い伸びを示している一方、複合サービス業が同3.2%の減少、情報通信業は同1.4%減、学術研究等が同1.4%減、飲食サービス業等1.3%減などの変動が目立っている。
名目賃金から物価上昇分を考慮した実質賃金指数をみると「現金給与総額」ベースでは前年比0.1%の減少で、これは4ヶ月連続のマイナスであり、0%の伸びも除きプラスの数値を示したのは16年9月の0.8%増が最後で、約1年にわたって実質賃金は減少傾向にあることになる。「きまって支給される給与」ベースでは0.3%のマイナスとなっており、全体として名目の賃金は上昇傾向にあるものの賃金が物価の上昇に追いついていっていないことを表している。
10月に発表された総務省の消費者物価指数は前年比0.7%増と比較的高い伸びを示している。これが9月の実質賃金の伸びをマイナスにした要因だが、これはエネルギー価格の上昇によるものとされ、生鮮食料品及びエネルギーを除く総合では0.2%増と小幅な増加にとどまっており内需主導のインフレとは言えないであろう。人手不足感が高まる中、全体として名目賃金は上昇傾向にあるものの実質レベルでは未だマイナス傾向が続いている。一部消費に回復の兆しが見られるものの内需増の実感は得られず勤労者の賃金上昇期待は薄く、消費の回復も底堅いものになるとは予想できない。マクロの需給ギャップは需要過多という試算もあり、また人手不足感もでてきてはいるが消費を中心とする内需主導の本格的景気回復にはしばらく時間がかかりそうだ。(編集担当:久保田雄城)