2月9日から始まった平昌冬季オリンピックも、すでに折り返し地点。連日、氷上や雪上で熱い戦いが繰り広げられているが、日本でも2020年の東京オリンピックへ向けて、否応なしにムードが高まってきている。
東京都の試算によると、東京オリンピックの経済効果は大会開催から10年後までに全国で30兆円規模を見込んでおり、東京はもちろん、全国規模で着々と準備が進められている。
また、オリンピック開催期間中に日本に訪れる海外からの観光客は、延べ1000万人にのぼるとみられている。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2017年12月の訪日外客数は252万1千人。2年間の合計では2869万1千人である。つまり、オリンピック開催の約一ヶ月の僅かな期間に、月単位で約4倍、年間訪日客の3分の1以上もの観光客が、どっと押し寄せることになる。
全国の宿泊施設や観光施設などはもちろん、交通や通信インフラに至るまで、充分な準備をしておかないと大きな混乱を招きかねない。巨額の経済効果が期待できる反面、評判を落としてしまえば、五輪以降の観光需要にそれ以上の甚大なダメージを与える可能性もある。
とくに心配されるのが、トイレの問題だ。会場やその付近、主要な観光地などでは、公衆トイレの混雑が予想される。日本は海外諸国に比べて比較的、トイレを探すのが容易な国だ。駅や公共施設、公園などに行けば大概、トイレは併設されているし、コンビニエンスストアのトイレを利用することもできる。しかし、それでも通常の4倍もの観光客が訪れれば混乱する可能性は高い。
そんな中、建築金物の総合メーカー・シブタニと大手電子部品企業のロームが、無線通信デバイス「EnOcean」を搭載したスライドラッチ「スイッチストライクエアー」を共同発表して注目されている。
スライドラッチとは、個室トイレなどに設置されているスライド式の鍵である。同製品は、見た目は通常のスライド式トイレ施錠金物だが、受け部に電池不要・配線不要の無線通信デバイス「EnOcean」が組み込まれている。配線不要なためどんな場所にもドライバ一本で簡単に設置でき、個室の施錠・開錠情報を無線送信することができるという。この情報は、トイレ入口の満空表示に利用するだけでなく、スマホの専用アプリで空いている個室トイレを即座に検索したり、施設内のトイレの混雑具合などを確認したりといった利用法も想定されており、利用者の時間短縮や効率化に役立つ。
また、公園や文化施設などの管理者側では施錠・開錠情報からトイレの利用状況を遠隔で管理・確認できるので、清掃・備品管理の効率化や、長時間利用を検知することで防犯や緊急事態への対応もし易くなる。さらにビッグデータ化することで、将来の改修計画などにも役立てることができる。まさにトイレのIoTというわけだ。
この「スイッチストライクエアー」はすでに京都市の協力を得て、外国人観光客も多く訪れる京都の世界遺産の一つである元離宮二条城の大休憩所のトイレで、ソフトウェア会社のウイングアーク1stが提供する管理システムと共に試験運用が開始されている。まだ認知度は低いが、オリンピックなどのイベントにおいてトイレの混雑解消に貢献し、便利さが伝われば、一気に世界中に普及するのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)