IoTの活用が進み、モノづくりの現場が急速に進化しつつある。2011年にドイツが製造業のデジタル化・コンピューター化を目指す世界初の国家的戦略的プロジェクト「インダストリー4.0」を発表してから、そのビジネス変革の波は瞬く間に世界中に普及した。日本の製造業も例外ではなく、現場でのIoT活用に向けて多くの企業が動き出した。
しかしながら、日本の製造現場では、「見える化」を中心とした、生産性の向上が目的のIoT活用がやっと見られるようになった段階で、欧米企業に見られるような、複数の現場や、異なる企業間を結びつけるようなオープンでソーシャルなネットワークとしての活用事例は少ない。いわば、閉鎖的なIoTだ。生産現場におけるヒトやモノの動きを「見える化」して把握する。そして、そこから傾向を分析して、作業の効率化を図ったり、システムや設備の異常検知や予測、対策を講じたりする。これにより、より高度なモノづくりが可能となる。日本では作業者が長年の勘や目利きで不具合を見つけられるほど高い技術力を持っており、、この生真面目さこそが日本の製造業の強みでもある。だが、IoTで得られる利点を十分に活用しているとは言い難い。
IoT最大のメリットは、より多くのモノとつながることによってもたらされる相乗効果だ。「見える化」はあくまで導入メリットの一つに過ぎず、最終目的ではない。自社の中だけでなく他の企業との連携や、異業種の技術、アイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などとつながることで生まれるオープンイノベーションこそがIoTの真骨頂だ。これを上手く扱うことができれば、たとえ中小企業でも、世界の大企業と互角に渡り合うことも可能だろう。IoTによって今、ビジネスモデルや産業構造、大企業絶対有利の競争環境が、世界規模で大きく変容しつつあるのだ。
この大きな変革の波に乗れるか否かで、企業の命運、ひいては日本のこれからの経済までもが大きく左右されることになるだろう。
ところが、中小企業などの中には、未だにIoTに対する認識が低かったり、導入に尻込みしてしまったりしている経営者も多いようだ。その最も大きな理由として考えられるのが、現場をIoT化しようとすると大掛かりな設備投資や工事が必要となり、IoT ソリューション導入費用が高額となってしまうことではないだろうか。とくに小さな工場などの場合、「IoT=見える化」から得られるその後のメリットが想定できなければ、導入するのはなかなか勇気がいる。しかし、小さな工場こそ、これからのビジネスにイノベーションを起こすためにはIoTは必要不可欠なソリューションだ。
そんな中、大掛かりな設備投資や、新規でIoT対応の工作機械を購入しなくても、既存の製造装置のままで、稼働状況をモニタリングできるIoT環境を構築する手法が出始めている。
例えば、ロームグループのラピスセミコンダクタ株式会社の無線通信マイコンボード「Lazurite(ラズライト)920J」と、市販のクリップ式 CT センサ、そして同社が4月末に発表し、インターネット販売を開始している電流検出用中継基板「CT Sensor Shield 2」だ。これらを用いれば、電源工事不要で、工作機械などの稼働状況を容易にモニタリングできる環境を簡単にあとづけで構築することが可能という。具体的には、装置の電流ケーブルをCTセンサのクリップではさみ、CTセンサのコードを「Lazurite 920J」を搭載した「CT Sensor Shield 2」につなぐ。これだけで、ケーブルに電流が流れているかどうか、つまり装置が稼動しているかどうかのデータ送信部分ができる。あとは送信されるデータを集めてネットに送るゲートウェイと、クラウドサービスを構築するだけで、モニタリングが可能になるという仕組みだ。「CT Sensor Shield 2」は、「Lazurite 920J」も合わせた待機時の消費電流をわずか10μA に抑えることに成功しただけでなく、電流センサの計測に使用される誘導電流を再利用する機能を搭載したことで、装置の近くにAC電源などを確保する必要がなくなった。これならば、大掛かりな設備投資も不要だし、工事のために現場を止める必要もない。前述のシステムを実際に導入した帯の専業メーカー小杉織物株式会社(福井県)は、当初工事費用含めて何千万という費用がかかる想定だったところを、本社工場64台の織機に対し、200万円以下の費用と月額のクラウドサービス利用料だけで、稼働状況のモニタリングを実現している。しかもセンサの取り付けから画面でモニタリングするまでに要した時間はたった3時間だという。何千万円という莫大な費用と時間がかかるIoT化が、驚くほど簡単にできるのだ。
アメリカの調査会社であるガートナー社の予測では、製造業におけるIoT投資額が、2020年までに3.9兆ドル規模に成長すると見込んでいる。日本のモノづくり企業も、この大きな変革の波に乗り遅れることの無いように、事業の大小に関わらず、まずはいち早く「見える化」で効率化し、次のステップへ進んでほしいものだ。(編集担当:藤原伊織)