日本自動車大手、北米から中国市場へ、大きくステアリングを切りはじめる

2018年08月26日 13:14

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中国の自動車販売は2005年当時に日本に肩を並べる580万台程度だったが、2009年に1360万台、2018年は3000万台に達すると言われる。写真は北京五輪前の2005年、高度成長期に入った中国・上海

 国内自動車各社が、中国市場におけるシェア拡大を目指して、大規模投資を加速させる。世界最大の自動車市場となった中国は日本メーカーにとっても残された数少ない成長市場といえるからだ。

 日本メーカーにとってこれまで大きな収益源だった米国市場は、トランプ政権の保護政策で不透明感が広がるなか、日本車各社は中国への依存度を強め、2018年に初めて日本車の中国販売が日本国内販売を上回る見通しだ。

 中国政府は2019年から電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)など一定比率の電動車両の生産・販売をメーカーに義務付ける。中国政府の思惑は、EV生産を中国国内に集結させて技術を蓄積し、EV大国とすること。また、貿易摩擦が広がるなか、外資メーカーによる合弁会社への過半出資を容認する方針を打ち出すなど、市場開放をアピールしている。

 そこでこれまで、中国共産党による極端な政策変更や複雑な日中関係など政治リスクは拭えないとして対中国投資に慎重だった日本車メーカーも、投資や技術が集積する巨大市場で取り残されるリスクを回避する政策にシフトする。この中国への投資とそこでの勝敗は世界市場における覇権の行方につながる。

 背景には、日本メーカーにとって中国市場の重要性が一段と増したことがある。2018年の中国の自動車市場規模は3000万台に達し、米国1750万台の倍になる日も近いとされる。中国市場は日本各社にとって2010年代初頭まで日米市場の補完的な位置づけだったが、過去5年間で日本車の中国の販売台数は6割も増えた。

 トヨタは中国に新工場を建設し、現地の生産能力を20%ほど増強する構えだ。EVやPHVなど環境対応車需要に対応し、投資額は総額1000億円規模になるとみられる。

 トヨタが新工場を建設するのは、第一汽車集団との合弁工場(天津市)と、広州汽車集団との合弁工場(広州市)。現在は中国全体で116万台の年産能力があり、それぞれの工場で、電動車両約12万台の生産能力増強を図る。まず、中国で電動車開発に伴う先端技術をブラッシュアップする。

 トヨタの2018年の中国販売は、前年比9%増の140万台と過去最高を記録する見込み。そこで、2020年には中国で初のトヨタ・ブランドのEVを現地生産で発売する計画だ。中国で先行する独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)に対抗する。

 トヨタは現在、北米に8カ所の完成車工場を持ち年産能力は202.5万台。17年に276.5万台を販売した。海外事業は北米が柱だが、米中の貿易戦争などリスクが広がるなか、各地で推進してきた現地生産をさらに進める。

 日産の2017年の中国での販売台数は、前年比12%増の152万台。韓国・現代自動車を抜いてVWや米GMに次ぐ3位に浮上した。国内勢でトヨタやホンダを抑えて首位にある。

 その日産も中国に新工場を建設するほか、既存2拠点を増強して2020年をめどに乗用車の年産能力を3割アップさせる。総投資額は約1000億円に達する見込みだ。

 現在、日産は中国で東風汽車集団との合弁会社を通じて事業展開しているが、完成車を組み立てる新工場を湖北省武漢に建設する方向で最終調整に入った。年産能力は20万~30万台になるとみられ、日産の中国での完成車工場としては9拠点になる見通し。日産は生産設備増強で日本勢として初めて200万台を超える。

 ホンダも中国事業拡大を活発化させる。ホンダは2018年に中国専用の電気自動車を発売する。2019年に中国で四輪車の生産能力を2割増やす。広州汽車との合弁会社、広汽ホンダ(広州市)増城工場のラインを2019年前半に増強。同社の生産能力を年60万台から72万台に引き上げる。武漢市にある別の合弁会社が建設している新工場も稼働させる。中国における公称の生産能力は年108万台から年132万台に高まる。2025年までに中国で20車種超の電動車を投入する計画だ。また、ホンダはインターネット検索大手、百度が進める自動運転プロジェクト「アポロ計画」に日本勢としていち早く参加を決めた。

 米国が保護主義的な姿勢を強め、米市場の先行きに不透明感が広がる。北米を収益の柱としてきた日本勢は、中国へのシフトにより、米中間でバランスを取り始めた。

 ただ、中国では2012年に尖閣諸島問題による反日運動拡大で日本車販売が大きく落ち込んだ。また、米トランプ政権と中国政府の貿易戦争による不買運動などで、中国における米国車販売が低迷しているように、中国事業は政治環境に大きく左右されるリスクを内包するのも現実だ。(編集担当:吉田恒)