IT技術の進歩が様々な分野において変革をもたらしているが、化粧品業界も例外ではない。むしろ化粧品とITの接点は急速に広がっており、各社が顧客満足度を向上させるため、あるいは他社との差別化を図るため、技術の導入にしのぎを削っている。
例えば、スキンケア化粧品を扱う富士フィルムは銀座の旗艦店で肌診断システムを、カネボウ化粧品の子会社はデジタルミラーと呼ばれる独自の化粧鏡を、コーセーはタブレット端末を使ってアイシャドーの色選びができる仕組みを、それぞれ導入して話題を呼んでいる。
富士フィルムが導入した肌診断システムでは、機器に顔を入れるだけで肌の状態を分析することができ、シミの分布やシワの深さが分かる。またカネボウの子会社が導入したデジタルミラーは、美容部員から受ける顔マッサージの指導の様子をカメラで撮影し、それをスマートフォンに送って自宅で復習することが可能だ。そしてコーセーが導入したシステムは、専用アプリを通じて簡単な質問に答えるだけで、自分に合うシャドーの色を選ぶことができる。
といった具合に、IT技術の普及は化粧品業界で着実に進んでおり、なくてはならない経営資源になりつつある。もちろん化粧品店のIT化は今に始まったことではなく、2002年には早くもカネボウと資生堂が「美容部員のIT武装」を実現しており、普及はすでに始まっていた。ただ当時と現在で違うのは、以前の適用対象が商品管理と顧客管理が主体だったのに対し、今は肌診断システムにまで及んでいることだ。しかもそれが本格的な情報提供を可能にし、最新鋭の肌分析器や診断システムによって、顧客は美容クリニックさながらのサービスを受けられるようになっている。
病院ではなく化粧品店で肌データを収集してインプット、それを解析したりシミュレーションしたり、診断することは今や常識。引き続きIT技術が進歩していけば、化粧品店がクリニック化していく可能性もある。顧客からすれば夢が広がって結構だが、その一方、企業間ではIT技術導入をめぐるサービス競争が激化して緊張感が増してきそうだ。いかに他社との差別化を図るか、あるいは独自性を確保するか、各社の取り組みは続く。(編集担当:久保田雄城)