日本の特殊出生率の低下傾向はこのところ底打ち感があるものの、未だ少子化克服は日本社会の大きな課題だ。出生率という統計数値の低下は女性1人当たりの子供の数が減ったということだけでなく、第一子の出産年齢が高齢化したところが大きい。別の言い方をするならば、出産リスクが増大する35歳以上での出産が増加していることで出生数の減少が底支えされているというのが現状だ。それ故に周産期医療の進歩は極めて重要だ。
理研と富士通の合同チームが周産期・新生児医療を進歩させる革新的AI検査システムの開発に成功した。主なメンバーは、理化学研究所の革新知能統合研究センターの小松正明研究員、浜本隆二チームリーダー、理研AIP-富士通連携センターの原裕貴副センター長、昭和大学医学部の松岡隆准教授である。理研・富士通共同研究グループはAI(人工知能)を用いて胎児の心臓異常をリアルタイムに自動検知するシステムを開発し、18日にこれを発表した。
先天性の心疾患の治療では、胎児期での早期診断によって出生前の段階で適切な治療計画を立てることがその後の経過を大きく左右する。しかし、胎児の心臓は小さく観測しづらい。さらに動きが速く複雑なために既存の超音波検査を用いた場合、高度な診断技術が必要で人的スキルに多くを依存することになり、検査者間で技術力に大きな差が出るのが現状だ。
この為、研究グループは過去のデータを統合した教師データからの学習するディープラーニングの手法を活用し、粗く複雑な画像情報から心臓の構造と挙動を高精度で識別するAI技術「物体検知技術」を用いて心臓の異常をリアルタイムで自動検知することを可能にした。
合わせて、観察対象の各部位の「確信度」を一覧表示することで検査を迅速化、結果の把握や説明を簡便化する新しい検査結果表示システムも開発し、臨床での標準化も可能にしている。
この標準化によって高精度の診断が一部の高いスキルの検査者にたよるというバイアスもなくなり、検査者間の技術格差や地域間の医療格差を埋め、早急に治療が必要な重症かつ複雑な先天性心疾患の見落としを防ぐことにもつながる。周産期・新生児医療の臨床での発展に大きく貢献することは間違いない。(編集担当:久保田雄城)