加速するデジタル社会において、欠かすことのできない技術となった無線通信。とくに近年はスマートホームやスマートシティなどに導入されるIoT技術の普及とともに無線通信機器市場は拡大の一途を辿っている。ミック経済研究所が昨年8月に取りまとめた調査レポート「ワイヤレスコネクテッド・ファクトリー市場の動向と5Gの展望~工場におけるワイヤレス化の現状と主要ベンダの実績と戦略、および5Gに向けた市場展望~」によると、2017年度に365億円と推計された市場規模は、2022年度には2倍以上となる789億円まで成長すると見込んでいる。
無線通信と一括りに言っても、用途に合わせて様々な方法がある。中でもIoTに適したソリューションとされているのがLPWA(Low Power Wide Area)だ。LPWAの特長は、長距離データ通信と低消費電流の2つのニーズを満たしている点にある。通信速度は数kbpsから数百kbps程度と、高速とはいえないものの、通信範囲は数kmから数十kmもの広域に及ぶ。省電力性にも優れ、一般的な電池で最大数十年にわたって運用できるのも魅力だ。
LPWAにもいくつかの規格があり、その特長も異なる。例えば、LoRaやSigfox、NB-LTEなどがあるが、長距離を飛んで、建物などを回りこむこともできる、免許不要帯域の920MHzのサブギガ帯を利用するLoRaやSigfoxが注目されている。LoRaは、米国やオランダ、韓国など、Sigfoxは欧州を中心に拡大しているが、その2つでも得意とする領域は異なる。
LoRaはSigfoxに比べて通信速度が速い。一方で、Sigfoxは通信距離においてはLoRaを上回り、低消費電力かつ端末がリーズナブルで全体のコストを抑えやすいため、少量のデータを繰り返し送信するIoT用途に向いているといわれている。また、Sigfoxは公衆サービスであることも大きな特長で、ネットワークを自分たちで準備する必要がない。
日本では京セラコミュニケーションシステムが、2017 年からSigfox サービスを展開しており、すでに主要都市へのエリア展開もほぼ完了している。2018 年12 月3 日時点での人口カバー率も90%を超え、契約も100万回線を突破したという。日本のIoT社会を支えるLPWA規格として期待されている。一方で、農地や山岳地帯などはサービスエリア外であることも多く、LPWA ネットワークの特長を活かすにはエリア外での通信を補完する方法が急務とされていた。
ところがこの課題も、ロームグループのラピスセミコンダクタが1月29日に発表した業界初の「LPWAブリッジ通信用ソフトウェア」によって解決される見通しが立った。
同じく同社が提供する、複数無線通信規格に対応する無線通信LSI「ML7404」が搭載されたIoT 端末やリピータ(中継機)端末に、今回発表された「LPWA ブリッジ通信用ソフトウェア」組み込むことで、Sigfox とIEEE802.15.4k の二つを使ったLPWA 間のブリッジ通信を実現できる。IEEE802.15.4kは、直接拡散方式による受信感度向上により長距離通信を図る無線方式であり、ブリッジ通信の実現により、これまで課題だったSigfox サービスエリア外からの通信を可能にする。これを導入すれば、従来のLPWA だけでは難しかった広範囲・高信頼のIoT システムを構築できるようになるという。
当然、この課題は日本国内だけではなく、Sigfoxがカバーする世界中の地域にも当てはまる。日本発信のLSI技術が世界の無線通信の勢力図を大きく塗り替えることになるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)