雇用に関する制度は日本でも国が主体となって進める姿勢を見せているが、国内にある企業の労働実態を見る限り改革はまだまだ発展途上であると言えるだろう。労働者の負担や不満を少しでも減らすために日本でも様々な法整備が検討され、労働環境改善を目的とした法律は実際に施行もされている。しかし現在のスピードで改革を進めていては日本で働く事に多くの人が不満を募らせ、ただでさえ不足している人材が国外へ流出してしまう恐れも出て来る。
日本の競争力維持を危惧し、同一労働同一賃金などの雇用制度確立を加速させるべきと唱えたのはヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンである。同社ではアジア5ヵ国・地域を対象とした給与水準と、3,000社に及ぶ企業の従業員に対して雇用に関する実態調査を毎年行っている。2018年で11年目となった調査では、現在の給与に不満を感じているとの回答が64%にものぼった。昨年と比較して11%の増加となる。同時に転職する理由についても調査した結果、給与との回答も増加傾向である事が窺えた。
調査対象となったアジアの中でも、日本はハイスキル人材への給与支払額が高い方ではない。会社勤めをしている労働者にとって、自分の仕事に対する最も分かりやすい評価方法の一つは給与となるだろう。良い成果を出し、多くの実績を残しているからには、それなりの見返りを望みたくなるのが当然だ。ところが実際に行った自分の働きに対して想定したよりも少ない賃金しかもらえない場合には、仕事に対するモチベーションの維持も次第に困難となってしまう。この企業で働くことは割に合わないとの確信に至ったとき、他社への転職を検討する人や、あるいは正当かそれ以上の報酬を支払ってくれる国外の企業へと移る人も出て来るかもしれない。
IT技術関連やAIの領域など、ハイスキル人材の需要はこれからの時代にますます増えて行く。そんな中で正当な報酬を用意できない企業ばかりが日本に集まってしまえば、優秀な人材を逃すどころか国外への流出も懸念される。日本産業の競争力を維持し、さらには高めていくために、せめて国際水準に達するだけの賃金程度は支払える体制を整えておかねばならない。(編集担当:久保田雄城)