近年の人材不足の深刻さを考えれば、博士号を取得している人はどこでもきっと引く手あまただろうと考えがちだ。しかし現実はそうではなく、非常に厳しい。博士号を取得した人が日本国内で就職するのは難しく、多くの人材が海外に流出しているのが実情だ。いったい何が起きているのだろうか。
文部科学省が実施している学校基本調査の2016年度版によれば、博士課程修了者のうち就職したのはわずか67.4%、しかもそのうち正社員として就職したのは51.7%と半数をわずかに上回る程度だ。しかも18.5%は博士課程終了後進学も就職もしないという結果も出ている。多額の学費を払って、高等技術や知識を得ても国内では就職できるかどうかが危ぶまれているのだ。これでは多くの学生が博士課程に進みたがらないのも無理はない。
博士課程修了者の専攻分野によっても就職率に違いがある。医学や歯学、薬学などを学ぶ保健分野の就職率は8割を超えるのに対し、多くのノーベル賞受賞者を輩出する理学分野は4割弱、人文分野では36%程度となっている。保健分野の博士課程修了者は医師や薬剤師などの受け皿が大きいが、理学分野や人文分野では教育機関や研究機関に就職するしかない。日本の企業では博士号がそれほど重視されず、即戦力として期待できないと考えられているのが現状なのだ。
しかし海外に行くと博士課程修了者の扱いは一変する。アメリカ国立科学財団が行った調査では2015年に工業分野の博士課程修了者で就職したのは64%、人文分野では80%と日本をはるかに上回る。さらに博士課程修了者の年収は約680万円から1130万円ほどとアメリカの平均年収約630万円を上回っている。企業も博士号取得者を優遇する立場を取っており、研究職を採用するための面接では博士号を持っていないと面接さえしてもらえないことも少なくない。こうした理由から、日本国内にいる博士号取得者の多くがより多くのチャンスを求めて海外に流出してしまっているのだ。今後の科学技術分野などの発展のために、企業がより一層博士号取得者の価値を認識すべきなのではないだろうか。(編集担当:久保田雄城)