日本では人手不足の状況が続いている。直近の有効求人倍率は昨年11月現在で1.57となっており、以前よりも緩和されつつあるというものの未だ極めて高い水準を維持している。人手不足の深刻化により倒産する企業も増え始めている一方でリストラを行う企業も大手を中心に増えてきているようだ。
人口構造の変化やグローバル化、テクノロジーの進歩など経営環境が大きく変化し事業の再編が求められている今、人手不足は単なる量の不足のみではなく新しい時代に対応できる人材の不足という質の問題にもなってきている。こうした状況下で新しい時代をにらんだ人員整理も含め早期希望退職を募る企業が大手を中心に急増している模様だ。
15日に東京商工リサーチが2019年の1月から12月における上場企業の「早期・希望退職」実施状況について調査結果を公表している。レポートによれば、2019年1月から12月の間に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1351人に達した。社数では過去5年間で最多となり、募集人数では13年の1万782人を上回り過去6年で最多、前年の18年と比べると社数が18年の12社から、人数で4126人からともに3倍に急増している。
1000人以上の募集・応募を行った企業は富士通が2850人、次いでルネサスエレクトロニクスの約1500人、東芝が1410人、経営再建中のジャパンディスプレイ1200人の4社で、過去の統計と比較しても大規模なリストラに踏み込んだ企業が目立った。
募集企業の65.7%は減収減益または最終赤字の業績不振であるが、製薬企業では4社中3社が直近決算において増収増益で、薬価改定など業界の今後を見据えた先行型の募集のようだ。食料品や小売業などの業界でも少子高齢化による影響など国内市場の環境変化に対応するため事業と人員の構造改革を進めている模様だ。製造業ではデータ解析やマーケティングなどの領域で不足する人材の確保を急いでおり、退職した社員と同等の規模の中途採用者を新たに募る企業も存在する。
働き方改革や高水準で推移する求人数が追い風となり雇用の流動化が進んでいる。こうした中で企業が積極的に事業と人員の構造改革を打ち出している模様だ。その一方で人材を育成する上での機会損失を招くのではないかとの見方もある。将来を見据えた事業性と適正人員をどう捉えるべきか各社の試行錯誤の取り組みが続いている現況のようだ。(編集担当:久保田雄城)