本当に強いサプライチェーンとは? 半導体企業が取り組む、これからの時代のSCM

2020年08月19日 07:17

フレキシブルライン写真+

ロームでは、ロボットを駆使して様々な半導体パッケージを小ロットから生産できる、省人化ライン、フレキシブルラインを開発中だ

災いは予測できない。2020年も半ばを過ぎたが新型コロナ禍も終息が見えず、世界中が混沌の中にある。昨年の今頃、世界がこのような状況に陥っていると、誰が予測できただろうか。しかも、新型コロナ禍に限った話ではない。

 日本では今年7月、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で記録的な集中豪雨が発生。被災地では災害発生から一月が経った今なお、傷あとが深く残っている。予測ができないからこそ、災害や緊急事態には日ごろからの備えが必要となる。家庭はもちろん、企業でもそれは同じだ。

 そこで今、世界中の多くの企業が見直しを進めているのが、BCP(事業継続計画)やSCM(サプライチェーンマネジメント)である。BCPは、企業が不測の事態に直面したときに、損害や被害を最小限にとどめるとともに、中核事業の継続あるいは早期復旧を可能にすべく、予め取り決めておく計画のこと。一方、SCMは、生産と流通プロセス全体で情報を共有、連携し、全体を統括して最適化を図る経営手法のことだ。とくにSCMの方はコロナ以前から、米中の貿易摩擦の深刻化を背景に国内回帰を図る企業が増え始めていたが、新型コロナの感染爆発によって拍車がかかっている。

 日本企業でも、グローバル化を維持しつつも、BCPや非常時を想定したSCMの構築に積極的に取り組む企業が増えてきているようだ。

 例えば、電子部品メーカー大手のローム〈6963〉では、ロボットを駆使して様々な半導体パッケージを小ロットから生産できる、省人化ライン、フレキシブルラインを開発中だという。同社に限らず、半導体メーカーでは通常、一つのパッケージは特定の工場のラインで生産されることが多い。しかし、これだと災害などが発生した際に個別の製品だけ生産できなくなるリスクが高くなってしまう。実際、ロームも2011年に起きたタイの大規模洪水で現地工場が浸水し、稼働停止を余儀なくされた。

 以来、同社ではBCPの強化に取り組み、同一品目を複数工場で扱うなど、有事には各地でバックアップできる体制を敷いてきた。しかし、今回のように世界規模で、同時多発的に起こるな未曽有の事態には対応しきれない可能性も高い。そこで、生産ラインを共通化及び自動化することで、様々な製品をフレキシブルに生産できる製造ラインの構築に乗り出した。本年度中に量産パイロットラインを立ち上げ、検証を重ねた後、21年度から順次、国内外の拠点に展開する予定だ。いわゆる国内回帰ではなく、海外の各製造拠点に展開するとともに、かねてより進める外部への生産委託なども加速することであらゆるリスクに備えるとしている。コロナ渦では、全世界に感染リスクがあり、いつどこで稼動制限や工場停止に陥るかが分からず、国内でも安心できない。リスクを分散し、一人当たりの生産性を向上させることで、安定した製品供給体制の構築を目指すという。

 一方、国内生産を重視したSCMを導入している最も顕著な例としては、自動車メーカーのトヨタ〈7203〉が上がるだろう。多くの自動車メーカーが生産設備を海外に分散させていく中、同社は国内生産、とくに本体やサプライヤーの工場の多くを中京地域に集約している。そこがマヒしてしまった場合のダメージは甚大になるだろうが、逆にそこさえ守れば被害は最小限で済む可能性も高くなる。また、平時におけるサプライヤーチェーンの状況なども把握しやすいというメリットもある。

 ローム方式やトヨタ方式の他にも、業種や業態などによって、様々なSCMやBCPが考えられるだろう。分散型だからどうだとか、集約型だからリスクが高いとかは一概には言い難い。経営の方針や規模にもよる。大切なのは、右に倣えの方向転換ではなく、それぞれの事業に即したSCMやBCPを検討し、検証し、導入することではないだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大で甚大なダメージをこうむってしまった企業も少なくないが、だからこそ、ロームのようにこれを教訓にして、より強い企業に生まれ変わってもらいたいものだ。(編集担当:藤原伊織)