産学連携でイノベーションを起こせ! 革新的な平面レンズが見せる、日本経済の生きる道

2021年07月18日 09:28

産学 (1)

国立大学法人東京農工大学とローム株式会社が、独自材料を用いて、テラヘルツ発振器に最適な世界トップクラスの極短焦点な平面レンズを共同開発

 インターネットの普及により、世界がどんどん近くなっている。多くの企業がグローバル化を進めており、商品やサービスも多様化する一方だ。その反面、ライフサイクルが短くなり、品質はもとよりスピードが重視される時代となった。しかし、大企業といえども自前の設備や人材だけで、革新的な製品やサービスなどを次々と生み出すのは困難だ。イノベーションを起こすのは、そんなに容易いことではない。そこで今、大きな期待を寄せられているのが産学連携だ。

 産学連携のメリットは数多く挙げられるが、最も重要なものは「優秀な人材」の確保だろう。

 企業には、確かに専門的な知識を持つ研究者や経験豊富な技術者がいる。しかし、事業成長につながるか分からない(市場が形成されるか分からない)革新的な技術を創造しようとした場合、そこに専従できる人材は限られてしまう。そこで、産学連携だ。大学の教員はその分野に特化した専門家であり、最先端を知る研究者。いわば、その分野のトップアスリートなのだ。大学と連携することは、彼らが持つ研究スキルそのものと連携することにつながる。これにより、企業は開発に要する時間を大幅に削減することができるのだ。もちろん、大学の保有する材料や充実した設備、産学連携による公的資金の活用なども、イノベーション創出の大きな推進力となる。そして、プロジェクトが終了した後も、双方にメリットの大きいネットワークが継続されることにもなる。これからの日本経済の発展のためにも、産学連携は欠かせないのだ。

 こうしている現在も、産学連携によって革新的な技術が生み出されている。

 例えば、国立大学法人東京農工大学とローム株式会社が、独自材料を用いて、テラヘルツ発振器に最適な世界トップクラスの極短焦点な平面レンズを共同開発し、7月7日に発表したばかりだ。「テラヘルツ波」は、6G(Beyond 5G)超高速無線通信などでの利用が大きく期待されている電磁波だ。テラヘルツ波の制御などに用いられる従来のレンズは、焦点距離が短くても10ミリメートル程度で、形状も厚さ10ミリメートル程度のドーム型をしているため、よりコンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向けて、極短焦点で薄い平面レンズが求められていた。

 今回、ロームが東京農工大学大学院の遠藤孝太氏、関谷允志氏、佐藤建都氏、鈴木健仁准教授らと共同で開発した平面レンズ(正式名称:両面構造ペアカットワイヤーアレーアンテナ)は、直径2ミリメートル、厚さ24マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)と、従来品よりもはるかに薄い平面形状ながら、超高屈折率・無反射な新材料を用いることで、焦点距離1ミリメートルの極短焦点を実現した。そして、一般的なテラヘルツ光源に比べて小型かつ低消費電力であり、室温でテラヘルツ波を放射できるという特長を持つ、ロームの共鳴トンネルダイオードに搭載したとき、パワー密度3倍の高指向性化も達成。パワー密度を保ったまま、テラヘルツ発振器の小型化を可能にする。

 この研究成果は、取り扱いやすくコンパクトで高指向性なテラヘルツ発振器の製品化に向けた第一歩として注目を集めており、6G超高速無線通信のみならず、近年、様々な分野で急速に発展と活用が進んでいる各種センサ機器、X線に代わる安心安全なイメージングなどでの展開も大きく期待されている。

 経済協力開発機構(OECD)の資料によると、2011年時点で世界のGDPの6.7%を占めていた日本の割合が、2030年には4.2%にまで減少すると予測されている。世界経済における日本の地位低下を食い止めるためには、産業界の活性化がかかせない。現在、日本企業が世界をリードする数少ない業界といわれている電子部品や材料、装置産業だが、勝ち続けるためにも、長期的な種まきが重要になる。産学連携がさらに活発化し、日本ならではのイノベーションが数多く生み出されることを期待したい。(編集担当:今井慎太郎)