2021年12月14日、トヨタが「バッテリーEV(BEV)戦略に関する説明会」と銘打った記者会見を急遽都内で開催した。トヨタ社長の豊田章男氏が自ら登壇したあたり、相当に力が入った発表会だったのだろう。
そこで豊田社長が表明したことは、電気自動車(BEV)やトヨタお得意のハイブリッド車(HEV)、世界で唯一市販している燃料電池乗用車(FCV)といった電動車について、2030年までに8兆円にのぼる一般研究開発や設備投資資金のうち、驚くべきことにBEV(バッテリー駆動のピュアEV)とFCVに、約半分の4兆円をあてるというのだ。
具体的には、2030年までに30車種のBEVを発売・展開し、グローバルに乗用・商用各セグメントにおいてフルラインでBEVを揃え、ラインアップしていくという。
トヨタとしてはクルマ走行中のCO2排出をゼロとするBEVなどの開発だけではなく、サプライヤーを含めた部品・材料調達からクルマの生産、ユーザーの使用、最終的な廃棄・廃車までのクルマの生涯ライフサイクル脱炭素で評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方が重要だとした。そのための4兆円、電動車350万台なのだ。
豊田章男社長は「これでも(トヨタは)EVに前向きでないと云われるなら、どうすればご評価いただけるのか」と熱っぽく述べたが、このトヨタのEVへシフト、本当に評価できるのか? 会見後「4兆円、350万台」を“EV本気モード”と絶賛したマスコミ各社は今一度「4兆円、350万台」の検証を始めている。
これまでグローバルで日本は「EV不毛の地」と呼ばれ、乗用車のEVシェア拡大は無かった。確かだ。これまで経済産業省を含め、国産車メーカーがEV開発普及に関して後ろ向きだと批判されてきた。これも事実だ。国内のEV新車販売比率は1.2%程度。日本では街を走るEVを見つけるほうが難しいのが実態なのだ。
そこからのBEVシェア拡大であり、2030年に350万台のEV販売を目標に掲げるというのは確かに野心的だ。トヨタがEVに前向きになったとする多くの評価は妥当に思える。が、この野心的と思える計画は、世界的な脱炭素の大きな流れから、かなり乗り遅れた数字だと云う指摘もある。
トヨタが発表した「2030年にEV車350万台という目標」の裏付け。それはトヨタが世界販売台数で1000万台を超える企業だということ。その前提で計画を見直せば、2030年の世界販売目標としてEV車比率を新車販売の35%に持って行くと云うことだ。
すなわち、今後「8年間で4兆円の電動化投資をする」というのが今回の発表なわけだ。が、現状でトヨタ全体の年間投資額は設備投資と研究開発投資を合わせて約2.4兆円。翻って単純に電動化投資4兆円を8年間で使うとして、5000億円/年でしかない。
言い換えれば、トヨタの投資額の約2割を電動化に投資するに過ぎないのだ。そして、クドいようだがEV投資は8年間で4兆円(5000億円/年)だ。つまりその程度なのだ。
云われているように2030年の時点での世界市場でEVシフトが進むか否かは不透明だ。2021年12月末の国際報道では、液化天然ガスの高騰から先進各国の石炭火力発電が勢いを増しているとのこと。しかし少なくとも英仏独の欧州先進国でガソリン車禁止を掲げている。
しかし、独フォルクスワーゲン(VW)はディーゼルエンジン搭載車を市場に再投入した。しかしながら2030年、これらの市場の過半はEVが占拠しているはずだ。事実、独自動車四天王(メルセデス、VW、アウディ、BMW)はEV開発に凌ぎを削り、欧州ステランシス、ルノー×日産+三菱自連合の電動化戦略も脅威だ。
おもな自動車先進国では、日本だけが2030年代の中間地点の定義・目標としてBEVのほかにプラグインハイブリッド(PHEV)、ハイブリッド(HEV)を含めた電動車をひと括りとしているが、これは世界で少数派だ。もちろん先進国で内燃機関車が売れなくなったとしても、電力ステーションインフラが整わない南米・アフリカなど途上国で従来のガソリン車やバイオマス燃料車などは必要とされることだろう。その時、日本車は必要解となるかもしれない。
しかし、そのような組織に対して世界の厳しい眼ガ突きつけられることは間違いない。日本が主張する「途上国では2030年代でも、まだまだガソリン車が必要」という論理は、欧州の「途上国でも脱炭素を進めなければ、2050年の世界をカーボンニュートラルは達成できるはずがない!」という主張と真っ向から対立する。
温暖化が進むだろう10年後の近未来に「日本車だけが途上国でCO2を排出し続けている」という声高の非難が高まれば、それは現在の「日本だけが先進国で石炭火力に力を入れている」という批判の比ではない国際圧力となる。こうした反応に政府および自動車大手は抗しきれるのだろうか?(編集担当:吉田恒)