トヨタが2030年までに目指す総計30車種におよぶBEVの一台「bZ4S」 電動車bZシリーズの中堅となるコンパクトなBEVのSUV 中国・米国・欧州など、EVの需要や再生可能エネルギーによる電力供給が多い地域に投入する
2021年、自動車業界、自動車各社はコロナ禍とサプライヤーからの部品供給の停滞、半導体不足に振り回されるなか、世界的なカーボンニュートラルへの要求に応える恰好で、クルマの電動化への取り組みをキーワードに各社、さまざまな新規事業への投資計画や開発計画を発表した。
こうした脱炭素の流れを受け、電動車の主役はどうやらバッテリーの電力でモーターを駆動して走り、走行中にCO2を一切排出しないピュアEV(トヨタは“BEV”と呼称)へのシフトが、ますます進みそうな気配だ。
事実、2021年末の12月になってトヨタは1930年までの商品計画で、BEV開発強化を掲げ、すべての開発投資8兆円のうち約半分の4兆円あまりを電動車開発に投じることを豊田章男社長自身が表明した。トヨタグループ全体の約1000万台の総生産販売のうち35%を電動車にするというのだ。実に350万台、世界でも中堅どころの自動車会社総生産台数に匹敵する規模のクルマを電動車に振り替えるというのだ。
各国の状況はどうか? 大胆なEVへの移行を国策として推し進めるお隣の中国では、現状で新車販売に占めるEV比率が13%にまでアップした。EV向けの補助金が1台購入にあたり最大1.8万元(約32万円)拠出される。が、一部の大都市ではナンバープレートの発給に優遇処置があり、EV販売促進にフォローに働いている。
中国でのEV販売は、中国現地生産を行なっている高級電動車「テスラ」の好調ぶりが伝わるが、一般消費者の要求に応える現地メーカーの格安EVも気を吐いている。上海通用五菱汽車の電気自動車「宏光MINI EV」は、乗り出し価格2.9万元(約50万円)からという格安価格で人気を呼んでいるという。この小型格安EVは大都市部だけでなく、地方農村部でもスクーターの代替モビリティとして人気が高い。
EVシェアの拡大に熱心な欧州各社も確実に電動車販売が拡大している。EU(欧州連合)はコロナ禍からの経済復興と再生可能エネルギー推進の環境政策が相まった「グリーンディール」政策を推進する。フランスやドイツなど先進EU加盟国では、EV購入に際して最大100万円程度の補助金を用意して普及を促している。欧州自動車各社にとって間違いなく内燃機関車から電動車への移行が必須施策になってきた。
先に紹介した世界のEV市場でトップを快走するテスラは、2021年10月には1超ドルの時価総額を記録、アップルやアマゾン、マイクロソフトなどに次いで世界5位に君臨する。ちなみに自動車シェアトップのトヨタの時価総額は約2億9000万ドル、世界28位である。
そのトヨタ、ピュアEVに後ろ向きだと世間・業界から指摘されていた。EVが普及するために必要な社会交通インフラが整うまで、内燃機関で発電しながら走行できるプラグインハイブリッド(PHEV)が最適解だとしていたのは確かだ。
ところが、2021年12月にプレス向けの電動車開発・普及に関する説明会を開催し、豊田章男社長が述べたのだ。
「(トヨタは)電気自動車(EV)の世界販売を2030年に従来計画比で約8割増の年350万台とする新たな目標を定めた。社全体の研究開発や設備投資8兆円のおよそ半分にあたる4兆円をEV開発に振り向ける」としたのである。
EV開発に「後ろ向き」とされたトヨタの印象を払拭する大胆な発言だったと、マスコミ各社が一斉に報じた。ただ、激化するEV開発競争をトヨタが勝ち抜くためには何が必要なのか、その焦点は依然として明確とは云えない、曖昧模糊としているのだ。
トヨタにとって今後のEV開発競争で課題となりそうなのは、4兆円を投じた商品(BEV)の収益性だ。確かにEVとて大規模工場で量産する工業製品だ。製品の標準化と大量生産で高効率とコスト削減を両立できる。ただ、その点では欧州に重心を置く独フォルクスワーゲン(VW)、米国内シェアが高いゼネラル・モーターズ(GM)が世界規模で有利だ。
トヨタは日本に限らず、世界で多様な車種構成が自慢だ。トヨタの“多品種・少ロット生産で高効率を両立する柔軟性”という従来の強みを、EVでも実現できるかが成功のカギを握るだろうというのが大方の見方だ。現在、1割程度ある利益をEVでも維持できるか、トヨタのEV開発にとって重要なポイントとなる。(編集担当:吉田恒)