ロシアによるウクライナ侵攻を受けて西側諸国はロシアに対する厳しい経済制裁を実施している。戦闘の長期化の中でロシア軍による住民虐殺の疑いも出てきており、西側諸国はさらに制裁を強化する構えだ。制裁の目的はロシア経済に打撃を与えることでロシア内部からプーチン政権の交代を含む軍事行動の中止を誘導することにあると思われるが、経済取引は相互利益により成り立っており、制裁を加えている西側の経済にとっても大きな打撃となる。特にロシアは資源大国でもあり、ロシアにエネルギーを依存している欧州諸国を中心に大きな痛手を被ることは容易に想像できる。
日本においてもロシアとの貿易停止は、木材や水産物を中心に大きな影響があり、既にサプライチェーンの混乱や関連する原材料の不足、価格高騰など幅広い悪影響が出始めている。制裁による悪影響は当然、西側諸国の経済活動も減速させるものであり、日本総研(日本総合研究所)の試算によれば、西側経済全体で25兆円の生産額が喪失されると推計されている。
4月15日、日本総研が「ロシア資源の禁輸措置で西側経済は不安定化、全面禁輸なら25兆円の生産下振れ」というレポートを発表している。これによれば、西側諸国はロシア産資源の禁輸措置を強化する模様で、3月に米国がロシア資源の全面禁輸を打ち出したほか、英国も原油の禁輸を決定、4月に入り英国とEUが石炭の禁輸に踏み切り、日本もこれに追随する方針だ。さらに、英国とEUは原油や天然ガスまで対象を広げることを検討している。
禁輸資源の代替が円滑に進まない場合、電力や原材料不足で生産は大きく落ち込むことになる。総研の国際産業連関表による試算では、鉱物性資源や石油製品を全て禁輸とした場合、西側諸国の生産は25兆円減少することになる。このうちの64%になる16兆円はロシア資源への依存度が高い欧州だ。ちなみに日本は約3兆円の生産額減少となっている。
資源不足は当然、資源価格の高騰を生み、米国や豪州などの資源国を除き、日本を含む多くの西側諸国では輸入価格高騰で多額の所得が海外に流出することになる。コロナからの経済再開で昨年から資源価格高騰は起こっており、「禁輸措置はこの傾向を助長する公算大」とレポートは指摘する。代替地の争奪戦がはじまれば、中東やアフリカ諸国など他の資源国での紛争を誘発しかねない。「代替エネルギーの活用や西側諸国内で化石燃料を融通する体制づくりが急務」とレポートは提言している。(編集担当:久保田雄城)