京都の電子部品関連3社の2022年3月期決算 世界が揺れ動いても積極投資姿勢なお続く

2022年05月15日 11:17

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京都3社の業績への影響は比較的小さく、いずれも最終増益だった。

 5月10日、京都に本社があるローム、村田製作所、日本電産の電子部品「京都3社」の2022年3月期決算が出揃った。コロナ禍は長引いて中国では都市封鎖が起き、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格や原料価格は高騰し、景気が先に回復したアメリカはインフレ抑制の金融引き締めに動き、為替の円安がさらに進行するなど世界は大きく揺れ動いているが、京都3社の業績への影響は比較的小さく、いずれも最終増益だった。2023年3月期の各社の業績見通しを見ると、最大市場の中国やアメリカで先行きに不透明感が漂うものの、「EV」「5G」などの世界的なメガトレンドに乗り、研究開発でも設備投資でもM&Aでも積極的な投資姿勢がなおも続きそうだ。

 ■好決算のロームは設備投資もM&Aも加速

 ロームの2022年3月期本決算(日本基準)は、売上高は25.6%増の4521億円で、21年ぶりに過去最高を更新。営業利益は85.7%増の714億円、経常利益はおよそ2倍、103.0%増の825億円、当期純利益は80.6%増の668億円という2ケタ増収増益、経常3ケタ増益という好決算だった。1株当たり当期純利益はほぼ倍増の680.62円。期末配当は前期比35円増配の110円、年間配当は前期比35円増配の185円になった。

 セグメント別では、LSIの売上高は前年同期比21.3%増、セグメント利益は109.4%増。自動車用ではADASやインフォテインメント。カーボディ向けのLEDドライバIC、電源ICが好調で、xEVのパワートレイン向けの絶縁ゲートドライバICのような高付加価値製品が売上を伸ばした。産業機器関連では設備投資を増強したFA向けが好調。民生機器関連ではテレワークの浸透でPC向け、白物家電向けの各種ドライバIC、電源ICが堅調だった。半導体素子は売上高32.1%増、セグメント利益55.7%増と好調持続、トランジスタ、ダイオード、パワーデバイスが自動車、産業機器、家電関連で好調。産業機器や民生機器で発光ダイオード、半導体レーザーも伸びた。モジュールは前期不振だったプリンタヘッドが回復して売上高は12.4%増、セグメント利益は107.0%増と倍増した。オプティカル・モジュールは産業機器でも民生機器でも売上増だったが、通信機器向けセンサモジュールが減収となっている。自動車向け、家電向けで順調だった抵抗器、PC、スマホ向けで売上が伸びたタンタルコンデンサなどのその他の分野は売上高35.3%増、セグメント利益171.8%増で。利益が前期比でV字回復をみせている。

 2023年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比12.8%増の5100億円、営業利益は6.3%増の760億円、経常利益は10.4%減の740億円、当期純利益は10.2%減の600億円の増収、最終減益予想。予想1株当たり当期純利益は611.38円となっている。予想中間配当は前年同期比25円増配の100円、予想期末配当は前年同期比10円減配の100円で、予想年間配当は200円で前期比で15円の増配となっている。

 自動車向けと産業機械向けを合わせた売上高比率は初めて50%を超え、力点を置いた投資効果が出ている。松本功社長は決算記者会見で「自動車の電動化などでLSIや半導体の需要が伸びている」と述べている。今期は2021年5月に発表した中期経営計画の2年目だが、足元の旺盛な需要もあり最終年度の財務目標を上方修正し、売上高6000億円(修正前:4700億円)を目指す。026年3月期までの5年間の累計投資も5000億円に(修正前:4000億円)増額し、積極的な成長投資やM&Aを行う。注目のSiCパワーデバイスでは、2026年3月期の生産能力を2022年3月期末比6倍まで高め、単年売上1000億円を目指すとしている。4月には電源向けの次世代半導体開発で台湾・デルタ電子との提携を発表するなど、中長期での成長に大きな期待が寄せられている。

 ■村田製作所は自動車もPCも家電も好調で連続最高益

 村田製作所の2022年3月期本決算(米国基準)は、売上高は11.2%増の1兆8125億円、営業利益は35.4%増の4240億円で過去最高更新。税引前当期純利益は36.8%増の4327億円、当期純利益は32.5%増の3141億円という2ケタ増収増益決算だった。1株当たり当期純利益は490.95円に増え、期末配当は前年同期比10円増配の70円、年間配当は前期比15円増配の130円となった。

 電子部品セクターはおおむねコロナ禍からの回復途上で、特に自動車向けは電動化、電装化の進展で顧客による在庫積み増しも起き、世界的に需要が大きく伸びた。PC向けもリモートワーク用途などで引き続き堅調だったが、スマホ向けは中国や台湾で在庫調整が起きた影響で需要が軟調に転じている。旺盛な電子部品需要に対応する在庫積み増しで製品価格が高く維持され、工場の稼働率が高止まり。さらに円安も追い風になっての好決算だった。

 セグメント別ではコンポーネントのセグメントは売上21.0%増で、オンライン教育、リモートワークでPC向けが伸びた積層セラミックコンデンサなどコンデンサが25.3%増、圧電センサがHDD向けに伸び発振子も好調な圧電製品が7.0%増、インダクタがPC、自動車向けに堅調で、リチウムイオン二次電池がパワーツール向けに大きく伸びたその他コンポーネントが18.8%増だった。一方、コネクティビティモジュールがスマホ向けで、樹脂多層基板は通信機器向けで売上を減らしたため、モジュールのセグメントは売上12.1%減だった。

 用途別ではAVが横ばい、スマホ在庫調整の通信が3.2%減、コンピュータ及び関連機器が23.6%増、積層セラミックコンデンサもEMI除去フィルタもインダクタも伸びたカーエレクトロニクスが23.1%増、リチウムイオン二次電池が大きく寄与した家電・その他が40.9%増となっている。

 2023年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比6.5%増の1兆9300億円、営業利益は3.8%増の4400億円、税引前当期純利益は2.1%増の4420億円、当期純利益は3.1%増の3240億円で、連続過去最高益ながら手堅く1ケタ増収増益予想を出している。予想1株当たり当期純利益は前期比ほぼ倍増の506.28円。予想中間配当は前年同期比15円増配の75円、予想期末配当は前年同期比5円増配の75円、予想年間配当は前期比20円増配の150円としている。

 今後のキーワードはDX(デジタルトランスフォーメーション)社会に欠かせない高速通信規格「5G」で、その普及期に向けて新しい電子部品の開発に積極的に動いている。2022年3月には資本提携先のアメリカのレゾナントを完全子会社化。2023年度までにここでビッグデータの通信を支える「高周波フィルター」の新型を量産化して、競合他社をリードしようとしている。他に島根県の生産拠点を拡大するなど、今期も研究開発、設備の増強、M&Aなどへの投資意欲は旺盛だ。

 ■日本電産はCEO復帰の永守氏が新事業部門指揮

 日本電産の2022年3月期本決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は18.5%増の1兆9181億円で過去最高、営業利益は7.2%増の1714億円、税引前利益は11.9%増の1711億円、当期利益は12.2%増の1368億円という増収増益決算だった。増益幅は絶好調だった前期を大きく下回るが、最終2ケタ増益はしっかり確保している。株式分割があったので前期倍増した1株当たり当期利益はさらに増えて234.30円。期末配当は前年同期比5円増配の35円、年間配当は前期比5円増配の65円とした。

 製品グループ別では創業以来の部門「精密小型モータ」は、HDD用モータが31.4%減収で、IT用ファンモータ、家電用モータ、ゲーム機などのサーマルソリューション商材が新規需要を取り込んで、トータルでは外部売上高4.2%減、営業利益36.6%減と頭打ちになった。「家電・商業・産業用」は外部売上高30.7%増、営業利益47.4%増と、前期から引き続き好調。家電向けコンプレッサ、空調機器向けモータ、欧米での搬送用ロボット向けモータ、ギアなどが寄与している。最重点分野と位置づける「車載」は外部売上高は16.6%増だが、営業利益は45.3%減と落ち込んだ。為替の影響は前期比で約193億円の増収要因、約3億円の増益要因だったが、売上が回復しても前期の落ち込みを完全にカバーするには至らなかった。受注が大きく伸びているトラクションモータシステム「E-Axle」の先行投資の開発費負担、ヨーロッパなどでの構造改革費用が利益の足を引っ張った。「機器装置」は外部売上高43.2%増、営業利益60.6%増と回復。「電子・光学部品」は外部売上高14.6%増、営業利益74.6%増だった。全体的に「WPRプロジェクト」による全社的な原価改善、固定費適正化の成果が反映して業績を支えている。日本電産はやはり、構造改革に邁進して得た利益を次世代の製品開発投資につぎ込むモデルは揺るがない。

 2023年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比9.5%増の2兆1000億円で初の2兆円超え。営業利益は22.5%増の2100億円で営業利益率10%を確保する。税引前利益は20.4%増の2060億円、当期利益は20.6%増の1650億円で、20%超えの増益で過去最高を更新する。予想1株当たり当期利益はさらに増えて284.35円。予想中間配当は前年同期比5円増配の35円、予想期末配当は前年同期比5円増配の35円で、予想年間配当は前期比10円増配の70円。今期は利益計画も配当計画も強気に出ている。

 2021年6月に代表権を保持しながらCEO(最高経営責任者)を関潤氏に譲った永守重信会長が1年でCEOに復帰する人事が発表された。後継者選びはやり直しになる。夏をメドに産業用ロボットの部品や工作機械を受け持つ新事業部門を設立する予定で、それは今後の戦略の大きな目玉になる。永守氏が陣頭に立って資金、人材を積極投入し、得意のM&Aも進めながら2030年に部門売上高1兆円突破を目指すという。(編集担当:寺尾淳)