ロシア産石炭。セメント製造で大きく依存。禁輸で建設投資腰折れリスクも

2022年05月18日 09:29

画・ロシア産石炭。セメント製造で大きく依存。禁輸で建設投資腰折れリスクも。

日本総研がレポート。禁輸となったロシア産石炭の輸入シェアは1割程度。しかし、セメント業界では半分近くがロシア産に依存

コロナ禍の経済活動制限の緩和による需要急増で、昨年から世界経済はインフレ基調に一転した。さらに今年2月下旬からのウクライナ侵攻に対するロシア制裁で、さらに世界のサプライチェーンは混乱し、資源価格の高騰に拍車がかかっている。多額の財政赤字を抱え、利上げが困難な日本では急速な円安によってさらなる原価高騰に襲われ景気の失速が懸念されている。ロシア制裁による日本産業への悪影響は多岐に及ぶが、日本総研(日本総合研究所)のレポートによれば、4月に追加されたロシア産石炭の禁輸措置は、これに依存するセメント製造に大きな負の影響を与え、波及効果の大きい建設投資を失速させる可能性もあるようだ。

 5月10日、日本総研が「ロシア産石炭の禁輸、セメント業界に影響大~建設投資が腰折れするリスクも~」というレポートを公表している。先に米国や欧州はロシア産石炭輸入の禁止を発表しているが、これに続き日本政府も4月にロシア産石炭禁輸を決定し、段階的に輸入量を削減、将来的には全廃の方針を表明している。レポートによれば、西側諸国が一斉にロシア産禁輸を表明したことで、ロシア産以外の石炭需要が急増すると予測され、既に石炭先物価格は急騰している模様だ。

 日本の石炭輸入元の構成を見ると、豪州産やインドネシア産が多くを占め、ロシア産のシェアは1割程度であり、全体として影響は小さいと見込まれる。しかし、業種ごとに見るとロシア産に大きく依存している分野も見られ、その代表がセメント業界だ。セメント製造で使用する石炭の46.5%、半分近くがロシアからの輸入だ。

 石炭輸入価格の急騰で、今後セメント価格も大幅に上昇する可能性がある。日本総研が産業連関表を用いて試算した結果によれば、石炭価格の高騰でセメント製品の価格が50%上昇したと想定した場合、道路建設などコンクリートを多用する公共事業のコストは3%上昇、民間の土木工事コストでは2%弱の増加となる。工事の遅れなどによるコロナ禍での停滞から回復傾向に向かっている建設投資だが、ロシア産禁輸によるセメント価格上昇で回復傾向が下押しされることが心配される。

 建設投資は波及効果が大きく公共事業は景気浮揚策の主要な手段だ。また、建設投資は、総固定資本形成の45%を占めGDPの中でも大きなウエイトを占めている。レポートでは「石炭の禁輸と建設投資との関連には要注目」と指摘している。(編集担当:久保田雄城)