「地方創生」という言葉が初めて使われたのは、2014年9月、第2次安倍改造内閣発足後の記者会見でのことだ。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げる目的で掲げられた一連の政策は当時、故安倍晋三元首相の名前をもじってローカル・アベノミクスなどと言われたりもした。以来、政府も様々な施策を講じてはいるが、8年経った地方の現状は、まだそれほど大きく変わったという印象はない。政府の試算によると、2040年までに消滅してしまう恐れのある市町村「消滅可能性都市」は約900自治体にものぼる。紀伊半島のほぼ南端に位置する海沿いの町、和歌山県の「すさみ町」も、そんな消滅可能性都市のひとつ。同町の人口は現在およそ3,700人で、年々減少の一途をたどっている。
すさみ町は、船の上から疑似餌を利用して魚を釣り上げる伝統漁法「ケンケン漁」やその漁で獲れる「ケンケン鰹」などで知られ、他にもブリやイセエビなどの水揚げも多い漁師町だ。ところが、多い時で330人もいた漁師の数は約80人にまで減少し、存続の危機に瀕している。たとえ網に引っかかっても、市場に出回らない地魚は地元で低単価でしか扱われず、漁師自らが消費したり、知人に配るしか手だてがなく、漁師の収入に結びつかないことが多い。その結果、漁業を目指す若者は減り、仕事を求めて町を出ていくのだ。しかし、そんな「すさみ町」に再び活気を取り戻そうと、ある挑戦が始まった。
2022年7月12日。すさみ町役場に報道陣が集まった。その日、ここですさみ町と、大手住宅メーカーの積水ハウス<1928>、そしてソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営するクラダシの3者が地方創生にむけて連携協定を締結するためだ。
積水ハウスは、「未知なるニッポンをクエストしよう」をコンセプトに世界最大のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルとともに地方創生事業「Trip Base 道の駅プロジェクト」に取り組んでおり、それに係る地域活動の一環として、今回の協定締結を主導。すさみ町の漁業従事者と、クラダシが取り組む、社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」をマッチングさせ、短期滞在型の漁師町インターンシップ「地域のもったいないプロジェクト」を開始する。
同プロジェクトではまず、9月12日から19日の8日間にわたって、参加大学生がすさみ町の伝統漁法「ケンケン漁」を通じて、実際に漁の生産現場を体験する「クラダシチャレンジ」を実施する。参加学生の宿泊は、道の駅に隣接する「フェアフィールド・バイ・マリオット・和歌山すさみ」と地元の宿泊施設を利用し、地域で働き、暮らすことをリアルに体験する。
そして次は、「クラダシチャレンジ」で収獲した水産物の商品開発を参加学生主導で検討。道の駅及びフードロス削減を目指し、まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう可能性のある商品を、おトクにECサイトで販売している「Kuradashi」において、収獲したケンケン鰹や市場に出回らない地魚などの水産物を販売する。期間中だけの一時的なものではなく、将来的には商品化した商品の販売も想定することで、これまで廃棄や自家消費されてきた地元の水産資源の有効活用の道を探る。「Kuradashi」を通して、食品ロス削減に向けた消費行動への変容を促すとともに、すさみ町の特産品PRと活性化にも繋げていきたい考えだ。
さらに、参加学生と地域住民との交流も大きな目的の一つだ。滞在期間中、すさみ町の住民を含めた交流会を実施することで、地域で働き、暮らすことを実際に体験するとともに、地域課題を抽出し、地元住民と共にその解決策の提案を行うという。
同プロジェクトは小さな一歩かもしれないが、積水ハウスとマリオット・インターナショナルが全国で展開する地方創生事業「Trip Base 道の駅プロジェクト」と、今注目を集めているソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」とが連携することで、大きな波を呼び込むこともできるのではないだろうか。
すさみ町だけでなく、日本にはまだまだ、日本人にもあまり知られていない美しい景色や美味しい食べ物、その地方ならではの魅力がたくさん眠っている。このプロジェクトをきっかけに、そんな地方の魅力が再発見されることを願いたい。(編集担当:藤原伊織)