原材料価格や物流費の高騰の影響で、電気やガスのインフラだけでなく、食品やサービスなど幅広い分野へ値上げの動きが広がっている。内閣府は7月29日、消費者の買い物などへの意欲を示す、7月の「消費者態度指数」(2人以上の世帯・季節調整値)を発表したが、「下げ止まりの動きがみられる」と評価していた前月からさらに1.9ポイント低下し、2か月連続での悪化となってしまった。
とくに家計を直撃しているのが食料品の値上げだ。日清オイリオグループとJ‐オイルミルズは、原料となる大豆や菜種の価格が上昇したことで、食用油の価格を1キロあたり40円以上の値上げに踏み切った。セブンイレブンやローソン、ファミリーマートなどの大手コンビニエンスストアでも、主力商品の弁当や惣菜、店内調理品などを2%~15%程度値上げする動きが相次いでいる。こうした動きは、今後10月以降も続くと見られている。
原材料の価格もさることながら、より深刻なのは原油価格の高騰だ。工場設備の燃料費や流通にかかる運送費や梱包代、原油の価格はあらゆるところに圧し掛かってくる。これまでの物価上昇には企業努力によって値上げをこらえてきたが、今回ばかりは苦渋の決断を迫られているという企業も少なくない。
清酒メーカー最大手で、日本酒単品では日本一の売上を誇る「白鶴 サケパック まる」を製造販売している白鶴酒造もその一つだ。同社は6月2日、「まる」をはじめ、「白鶴」や「忠勇」など、取り扱う全ての日本酒約150品目において、10月から約5~10%値上げすると発表した。同社の値上げは2013年10月以来、9年ぶりとなる。
同社によると、今回の値上げは、日本酒を製造する過程で使用する酒米などの価格上昇に起因するものではなく、流通・資材費の高騰が原因だという。例えば、パッケージに用いるキャップ、流通の際にかかる燃料費やガソリン代など、「酒造り」そのものとは関係のない経費だ。とはいえ、同社が安易に値上げを断行したというわけではない。
白鶴酒造では、実は数年前から、資材費や流通コストを抑える為に社員一丸となって様々な取り組みを行っている。荷物のまとめ方を社内で工夫することで、取引業者の作業時間を出来る限り物流コストの面を圧縮してきた。また、製造コストの面では、販売計画と生産計画の乖離を無くして、工程管理の無駄をできる限り省くため、営業部門と生産部門が一致団結できる社内体制を整えた。さらには、製造機器のメンテナンスも、自社の技術者ができる範囲で行うなど、細部にいたるまであらゆる部分で、出来得る限りの経費削減努力を重ねてきたのだ。しかし、今回ばかりはさすがにどうにもならなかったようだ。
ギリギリまで経費削減に取り組んでいることに加え、資材、ガソリン高で苦しむ取引先業者からの度重なる値上げ交渉を受け、社員やその家族を守るためにも、メーカーとしては苦渋の想いと決断で今回の値上げを決断した。それほどまでに、昨今の状況は深刻になっているのだ。
白鶴酒造だけでなく、他の酒造メーカーも軒並み値上げを発表している。しかも、すでに取引業者と次の値上げ交渉を始めている業者も少なくないようだ。このままでは日本の食文化の代表格でもある「日本酒」が危機的な状況に陥りかねない。もちろん、これは日本酒メーカーに限ったことではない。この苦難の時期が過ぎ去った後、日本の食の安全や文化を継承している企業が途絶えてしまっていたら、取り返しのつかないことになる。例えば、ガソリン税を一時的に軽減する「トリガー条項」のような、緊急時において政府主導で発動できる軽減税制度や補助金など、日本文化や食文化を守るための施策を早急に検討すべきなのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)