岸田文雄総理は24日のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、原発再稼働に強い意欲を示した。「再稼働済み10基の稼働確保、設置許可済み原発再稼働へ国が前面に立ってあらゆる対応を採っていく」と原発推進へ舵取りを鮮明にした。原発のない社会を目指す国民を無視する姿勢だ。
岸田総理は「再稼働に向け関係者総力の結集、安全性確保を大前提とした運転期間延長など既設原発の最大限活用、次世代革新炉の開発・建設など今後の政治判断を必要とする項目が会議で示された」と「年末に具体的結論を出せるよう、与党、専門家の意見も踏まえ、検討を加速するよう」関係閣僚に指示を出した。
自民党は「安全性が確認された原発は最大限活用する」と表明している。同じ与党の公明党は「原発依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会を目指す」と党公約に掲げる。岸田総理の原発推進姿勢と公明党姿勢に乖離が起きる可能性もある。
日本経済団体連合会や電事連などは原発の新増設や既存施設の運用期間の延命を訴え、GX実行会議有識者メンバーとして経団連の十倉雅和会長、中部電力の勝野哲代表取締役会長らも入っている。岸田内閣がまたまた経団連の方針に則した原発政策をとることになるもよう。
またまたと言ったのは、自民総裁選で「所得倍増」「金融所得課税強化」を訴えた総理が総理就任後に「資産所得倍増」にすり替え、金融所得課税強化どころか、「貯蓄から投資へ」と個人の金融資産(2000兆円)の半分を株式市場など投資に流れる政策を打ち出した。これは経団連の期待に沿う政策。これに続くエネルギー・原発政策になるだろう。
経団連の十倉会長は「原発利用の積極的推進」をGX初会合から提起している。求めたのは「原発の着実な再稼働、原発運転期間の『現行の40年を60年へ延長』、革新軽水炉やSMR、高温ガス炉などを念頭にした新設方針の明示、核融合の研究開発強化」というもの。
原発を巡っては24基の廃炉が決まっている(7月4日現在)。一方、再稼働は10基、ただ実際に稼働中のものは九州電力川内原発2基と関電大飯原発1基、四国電力伊方原発1基の計4基。残りは停止中だ。また設置変更許可は7基、新規制基準審査中は10基、未申請のものが9基ある。
中部電力の勝野氏はGX実行会議提出資料で「建設中を含む全36基の原発が60年運転するとしても2040年以降、設備容量は大幅に減少する見通しだ」と「運転期間制度(現行40年)の見直し、リプレース、新増設の検討」を強調した。
政府資料によると海外ではフランス、英国が再生可能エネルギーの拡大・加速とともに原発推進の方向を加速、としている。フランスは既存原発の運転延長とともに新設も進める方針を2月にマクロン大統領が表明。英国ではエネルギー供給比率に原発が15%(現行)から2050年までに25%に拡大としている。
しかし、原発により発生する「核ゴミ」最終処分の在り方に解決が見えない中、原発運転期間の延長や新増設まで許されるのか。東京電力福島第一原発事故は「今も終わっていない」。事故による「燃料デプリ」の取り出し作業さえ、政府・東電は25日、年内開始予定していた取り出し作業を「2023年度後半まで延長する」と再度の延長発表をせざるを得ない状況に追い込まれている。汚染水処理の問題も世界の舞台で問題視されている状況にある。
原発のない社会、原発に依存しない社会をいかに実現するか、電力需要、コストを超えて取り組まなければならない「地球環境に関わる最重要課題」と言わなければならない。事故が起きれば取り返しのつかいない環境汚染、あらゆる生物への悪影響を考えた政策をとるべきだろう。
原発事故(2011年3月11日)から約11年半となる今も事故処理に取組まねばならない当事者国として、その対応策を含め、脱原発社会への取組みをこそ世界に発信していくことが必要。今も福島県の337平方キロメートルエリアが原則立入禁止(帰還困難区域)になっている現実を忘れてはならない。合理性、経済性、効率性を超えて優先すべきこと。
日本共産党の志位和夫委員長は「首相の原発新増設への方針転換表明に強く抗議し、撤回を求める」とツイッターで発信した。「福島では多くの方々が故郷を追われ苦しい避難生活を強いられている。福島の現実を、福島の教訓を忘れたのか?再エネの大規模普及にとっても原発が最大の障害となっている事実をどう考えるのか?」。原発事故を忘れたかの岸田総理に怒りを隠せない国民は多いだろう。都合の悪いことにも「聞く耳」を傾ける謙虚さを総理に期待したい。
女優の東ちづるさんは「え!?原発を新増設へ方針転換!?こんなに地震が多い国で?あんな事故があったのに、新しく増設?まだ避難生活に追いやられている方々いるのに?福島の教訓は?選挙が終わってから発表するの、なんかズルくない?・・・慎重な議論をお願いします」と素朴に、疑問を提起。菅直人元総理は「原発は放射性廃棄物を発生させるだけでなく、ウクライナを見ても原発の存在自体が安全保障上の大きなリスクになっている」と原発の存在自体がリスクだと警鐘を鳴らしている。(編集担当:森高龍二)