未来都市で手を結ぶトヨタと日清食品、「Woven City」の完全栄養食とは?

2022年09月28日 06:41

Toyota Woven City_s

2020年の米CESでトヨタが発表したWoven City ここで日清食品が住民に提供する食事が、昨年、誕生50年を迎えたグローバルブランド「カップヌードル」をつくった日清食品の完全栄養食 果たしてその中身とは?

 日清食品HDとトヨタ自動車は、静岡県裾野市でトヨタが建設を進めるWoven City(ウーブンシティ)における、食を通じたWell-Beingの実現に向けた実証について、具体的な検討を進めることで基本合意したと発表した、この春のことだ。

 「チキンラーメン」で世界の即席麺市場を切り開き、「カップヌードル」でカップ?という形態を定着させた日清食品HDはここで、世界の食のベクトルの一方が「健康」を志向するなか「完全栄養食」を柱に、“新しい食“産業のモデル確立に挑むとした。

 片や静岡県裾野市の広大な工場跡地で2024年部分開業を目指す実験都市「Woven City」開業を目指すトヨタ自動車は、自動運転や環境配慮など暮らしの近未来像を実証実験するこの街で、日清食品HDが開発中の「完全栄養食」を住民の食事として提供する計画を進めている。

 両社は、トヨタの子会社でソフトウェアを中心とした様々なモビリティの開発などを担うウーブン・プラネット・ホールディングスとともに、日清食品が研究を進める最新の分子栄養学に基づく「完全栄養食メニュー」をWoven City内で提供するなどを通じて、一人ひとりに最適な「おいしい健康」を目指す。

 完全栄養食とは、食物繊維やカリウムなど多様な栄養素をバランスよく摂取できる食事全般を云う。両社は実験都市を通じて、その食事を生かし、住民一人ひとりの健康増進を支援する実証実験を行なう。日清食品HDにとって、トヨタとも組んで育てようとする完全栄養食ビジネスは、単に新規事業という以上の重みを持つ。

 現在、日清食品は「Beyond Instant Foods」を標題に、即席食品の価値を超えた新たな「食文化」の創造に挑む。そのひとつとして、見た目やおいしさはもちろん維持しつつ、カロリーや塩分、糖質、脂質などをコントロールし、必要な栄養素を全て満たす「完全栄養食」の研究を進めている。即席麺などで培ってきた技術を応用し、独自かつ最先端の食品加工技術を駆使した未来の食の実現に向けた取り組みを進めている。

 一方、モビリティカンパニーへの変革を目指すトヨタが開発するWoven Cityは、あらゆるパートナーと共に多彩な実証を行なう近未来の街。「モビリティ」にはA地点からB地点への移動に加え、「Move、すなわち“人の心を動かす”」意味をも含む。トヨタはWoven Cityで、「モビリティ」の定義を拡大させ、ヒト中心とした幸せの量産を追求していくことに挑戦する。そこで日清食品の完全栄養食が浮かび上がったというわけだ。

 具体的に両社は、下記の取り組みを検討していく。

 Woven Cityにおける「完全栄養食メニュー」の提供を通じた、住民の食の選択肢拡充と健康増進の共同実証および、一人ひとりに最適な「完全栄養食メニュー」の提供に向けたデータの連携を実施する。

 両社は、日清食品の「完全栄養食メニュー」をWoven City内で提供することなどを通じ、一人ひとりに最適な「おいしいと健康」を目指し、食を通じたWell-Beingの実現に向けて取り組むという。

 日清食品 代表取締役社長 安藤徳隆氏は、「『ヒト中心とした幸せの量産』を目指すトヨタの構想に強く共感するとともに、Woven Cityに参画できることを喜んでいます。今回の取り組みは、一人ひとりに最適な『完全栄養食メニュー』をいつでも、どこでも食べることができる「新しい食生活」を具現化するための第一歩です。『食と栄養のあり方』や『食と健康寿命延伸との相関』をテーマに、Woven Cityで中長期にわたる実証を重ね、食を通じたWell-Beingの向上に取り組んでいきます」と語った。

 トヨタ自動車取締役執行役員でウーブン・プラネット代表取締役CEO James Kuffner氏は、「世界で初めて即席麺を開発するなど、新たな食文化を創造し続けてきた日清食品と共に、食と健康という領域において、Well-Beingの実現に向けた一歩を踏み出せることを大変嬉しく、心強く思います。トヨタはWoven Cityでの実証実験を通じて、『モビリティ』の意義や価値を拡大させ、幸せの量産を追求していきます。幸せの形と食の好み・健康状態が人それぞれ異なるなかで、日清食品と一緒に、『実証実験の街』Woven Cityにおいて、どのような『食』が人の心を動かし『一人ひとりの幸せ』に繋がるのかを検証していきます。なお、自働化やジャスト・イン・タイムといったトヨタ生産方式のノウハウを食品サプライチェーン上でも活用することで、フードロスなど食にまつわる様々な課題解決に貢献できるように取り組んでまいります」と述べている。

 日清食品は「世界初の即席ラーメン」という創業者の安藤百福氏が起こしたイノベーションをはじめ、発売50年を超えたカップヌードルというカップ?のグローバルブランドのヒットを経て、食品大手でも安定して高い利益成長を続ける。

 だが21世紀に入って呼応するように、世界の食の価値を巡る競争軸も変わった。大きな軸は「健康」だ。「ジャンクフード」「過食」のイメージが付きまとう即席麺&カップ?に対し、消費者の目も厳しくなってきた。そのイメージを払拭できなければ世界市場からいずれ脱落する。ガソリンエンジンの変革進化、ハイブリッド車の普及、燃料電池車の開発で先鞭を付けたトヨタ。果たして両社の思惑は順調に進むのだろうか?(編集担当:吉田恒)