自動車のアクセルやブレーキを車両が操作する「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」や、道路上の車線を検知し、車両が車線から逸脱しそうになるとドライバーに警告を発するLDW(車線逸脱警報)」など、レーダーやセンシングカメラなどを駆使した先進運転支援システム(ADAS)の普及が順調に進んでいる。また、普及に伴って、例えば従来のリアモニタやバックソナーなどで駐車を支援する機能に駐車進路予測や切り返しのタイミングを音声で案内する機能などを加えた「APA(高度駐車アシスト)」のように、さらに便利に進化したADASも登場している。
COVID-19パンデミックや世界的な半導体不足などの影響で、自動車産業は厳しい状況が続いているが、各国で進む安全義務化への対応や、半自律走行システムへの需要の高まりが後押しして、ADAS関連市場は拡大傾向にある。フランスの半導体市場動向調査会社Yole Groupが今年6月に発表した「ADAS/車載インフォテインメント用コンピューティングプロセッサ市場」の調査結果でも、2021年には40億ドルだった同市場が、2027年には118億ドルに達すると見込んでいる。
ADAS市場が今後も安定して拡大するためのキーワードとなるのが「安全」だ。自動車は命を運ぶ乗り物だけに、いくら技術革新が進み、利便性が向上しても、安全が保証されなければ普及は見込めない。ところが、車載のセンサやカメラなど、ADASを制御するSoCやマイコンが高機能化するにつれ、処理能力の向上と省電力に向けた低電圧化も求められるようになり、その結果、電力を供給する電源ICにも
厳しい電源条件が求められるようになってきている。
そんな中、期待されているのが、日本の電子部品メーカーのローム株式会社が今年5月に発表した、革新的ともいわれる電源技術「QuiCur(TM)(クイッカー)」 だ。QuiCur(TM)は、高速負荷応答を実現するロームの独自回路「Quick Current」から名付けられた商標で、同社が独自に開発に成功した、電源ICの応答性能を極限まで追求可能にしながら、電源回路設計工数を大幅削減する新技術なのだ。QuiCur(TM)を電源ICに搭載することで、従来は実現が難しかった帰還ループの不安定領域直前に至るまでの高速応答性能を実現することができるようになり、低電圧出力でも安定動作を可能にする。
同社は8月2日、このQuiCur(TM)を搭載した、車載機器向けの降圧型DC-DCコンバーターIC「BD9S402MUF-C」をリリース。従来品に比べて、出力電圧の安定度が25%向上しており、最新のADAS機器に搭載されているSoCなどで求められる厳しい要求にも、比較的大きな設計余裕を持って対応できるという。 同製品は、ADAS機器をはじめ、車載インフォテインメント機器、車載ゲートウェー機器などに搭載されるマイコンやSoC、DDRメモリーなどに幅広く対応する。
ADASの世界市場は、2030年には1000億ドルを超える規模にまで拡大するともいわれている。ブロック技術の一つであるカメラモジュール分野では韓国メーカーが先行するなど、熾烈なシェア争いが始まっているが、「安全」という最も大切な分野では、日本企業の匠な技術がシェアを確保してほしいものだ。(編集担当:藤原伊織)