日本酒の、あの現象をついに克服? 酒類総合研究所と日本盛が開発した酵母に期待

2022年10月30日 10:35

日本盛 燗酒ボトル缶 (1) (1)

老香の酵母を使用した業界で初となるホット販売専用の「日本盛 燗酒(かんざけ)ボトル缶」

 日本人はどうして、日本酒を飲まなくなってしまったのか。これから迎える寒い冬の季節、旬の魚や鍋料理などとも相性が良い日本酒は、かつては日本の食卓には欠かせないお酒だった。ところが近年ではビールや発泡酒、焼酎、ワインなどに追いやられ、国内の日本酒の消費量はピーク時の1/3以下にまで落ち込んでいる。

 一方、海外では日本酒が大人気で、年々輸出量が増えている。とくに中国向けの日本酒輸出は急拡大しており、日本の財務省が発表した貿易統計によると、2011年時点の輸出量がおよそ375キロリットル、輸出額2.1億円だったのが、2021年の輸出量は7268キロリットル、輸出額102.8億円まで急拡大しているのだ。この背景には、新型コロナウイルスの蔓延によって訪日できなくなった人たちの、中国国内での消費の増加や、日本酒のEC販路の拡大、またそれによって中国での日本酒の認知度が向上したことなどが考えられるが、それにしても驚くべき伸び率だ。

 とはいえ、日本酒を取り巻く現状は厳しいと言わざるを得ない。国税庁の調査によると、酒蔵の数は減少の一途を辿っており、2000年から2016年の間に500ほどの清酒製造業者が廃業しているという。これは、1ヶ月あたり2.9もの業者が廃業している計算になる。これは日本の食文化にとっても由々しき事態だ。

 日本酒が日本国内で飲まれなくなってきたと考えられる原因はよく言われる酒離れなど様々だが、その一つに「老香(ひねか)」といわれる、日本酒の宿命的な問題がある。熟成からもたらされる独特の香りとは違い、老香の方は悪臭、劣化臭といえるものである。とくに火入れがなされていないデリケートな吟醸酒でよくみられるようだ。これでは、せっかくの日本酒が台無しだ。老香の正体はジメチルトリスルフィドという有機硫黄化合物であることが判明している。長期の保存や保存状態によって、このジメチルトリスルフィドが発生してしまうと、老香になってしまうわけだ。

 しかし、日本酒業者を長らく悩ませてきたこの問題も、ようやく解決するときが来た。老香を発生しにくい酵母を独立行政法人酒類総合研究所と兵庫県西宮に本社を置く日本盛は共同研究によって、老香を発生しにくい酵母を開発することに成功したという。すでに日本盛の銘柄には、この酵母が使われているが、これまでと違う新たな製法で酒造りを行わないといけない為、現在は3種類での展開にとどまっている。

 この特許は日本盛だけのものでなく、他の酒造メーカーでも使用が可能なので、今後、この技術が広がれば、海外の日本酒愛好家にも本当に美味しい日本酒を提供でき、またコロナ渦で宅飲みが増えている国内での日本酒消費増加の一躍をになう可能性も大いに期待できそうだ。(編集担当:藤原伊織)