2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを機に、同年約5.5万軒しか存在しなかった海外の日本食レストランが、2019年には約3倍の15.6万軒にまで急拡大するなど、ヘルシーで繊細な日本食は世界的なブームとなっている。このブームはコロナ禍の現在でも拡大傾向にあるが、「食」とともに海外の人たちに人気を博しているのが「SAKE」、そう日本酒だ。日本酒の輸出はアメリカを筆頭に、中国や韓国などのアジア各国、さらに近年ではドイツやフランスなどヨーロッパ各国でも需要を伸ばしており、年間の輸出量も右肩上がりとなっている。海外の美食家の間では、美味しい日本酒を飲むこと、知っていることが、ステータスの一つにもなっているそうだ。
その一方で日本国内の日本酒の消費量は昭和48年をピークに減少を続けており、令和時代に入ってからは、ピーク時の3分の1まで落ち込んでしまっている。ところが、不思議なことに酒好きの日本人に「好きな酒」を聞いてみると、日本酒を挙げる人は多い。洋食ならまだしも、家でも和食を食べる時はやはり、日本の食文化に根付いた日本酒は美味いのだ。では、なぜ日本酒は売れないのか。
日本酒の国内売上が低迷している一つの原因は、店頭に出回っている酒の種類の多さにあるだろう。ビールやワイン、焼酎など、選択肢は多い。そして発泡酒やサワーなど、安価な酒が増えたことも大きい。日本は世界的にみてもビールの消費量が多い国だが、そのビールですら年々、消費量が減退しているのだ。毎日飲む人にとって、お財布事情が大きく影響してしまうのは仕方がない。
また、日本人にとっても日本酒は特別なものになりつつあるのではないだろうか。御馳走を食べる時、久し振りに会った親しい人と飲むとき、何かのお祝い事。そんな「ハレの日」の酒として、日本酒は最適なのだ。それだけに「普段の酒」としての印象が薄れつつあるのかもしれない。
「ハレの日」に飲むのなら、とびきりの日本酒を飲みたいものだ。
そこで紹介したいのが、神戸市から西宮市の沿岸部にある日本一の酒どころ灘五郷(なだごごう)で造られている「灘の生一本」という日本酒だ。「灘の生一本」は、「灘五郷(西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷)の単一の醸造場のみで醸造した純米酒」のことだが、当シリーズは「灘酒研究会」の統一ブランドという点が特別だ。「灘酒研究会」は、普段は競合としてしのぎを削っている「灘五郷」の醸造技術者が、灘の酒、ひいては日本酒を守り、受け継ぎ、発展させるために、1917年に発足して以来、100年以上にわたって企業の枠を超えて研究と研鑽を重ね、年4回の審査と品評会を実施するなど、灘の酒の歴史と品質を守り続けている。その「灘酒研究会」が統一ブランドを販売するために立ち上げたプロジェクト「灘酒プロジェクト」で、醸造技術者が英知を結集し、兵庫県産米のみを使用して醸し上げた、選ばれた日本酒だけが冠することを許される純米酒ブランドだ。
そんな、灘の酒造り職人たちの歴史と誇りの結晶ともいえる、灘酒プロジェクトによる「灘の生一本」は2011年度から発売されており、今年で12年目を迎える。今年度は灘五郷酒造組合員全26社の内、沢の鶴・剣菱・白鶴・菊正宗・櫻正宗・浜福鶴・白鹿・大関の8銘柄が参加しており、それぞれのの蔵元で9月6日から一斉に期間限定で発売開始される。
白鶴の独自開発米である「白鶴錦」を100%使用した純米酒で、やや辛口でキレがよく、すっきりとした味わい、そして芳醇で華やかな香りが女性にもウケそうな「白鶴 灘の生一本」をはじめ、じっくりと丁寧に熟成させた香りと黄金色が特長の「剣菱 灘の生一本」、生酛造りによって醸された、旨みとコクのある深い味わいが特長の辛口純米原酒「沢の鶴 灘の生一本」など、統一ブランドといっても各社によって特長や味わいが大きく異なるので、8種ともぜひ飲み比べてみたいところだ。
ちなみに、全社の「灘の生一本」はいずれも、国税庁指定の地理的表示、GI「灘五郷」に認定されている。これは、灘五郷で造られた日本酒を保護するとともに、その品質を保証するために設けられた制度で、国も認める最高品質の日本酒だけに与えられるものだ。
これから日本は秋、そして冬と、食の季節を迎える。手軽なお酒もいいけれど、秋の味覚や鍋料理にはやっぱり日本酒を併せたい。ただでさえ、長引くコロナ禍で鬱屈とした毎日が続いている。「ハレの日」でなくとも、美味しい和食と美味しい日本酒を飲んでほっこりすれば、少しは心も晴れやかになるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)