政府は来年10月から消費税に関し「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」を導入する方針を変えていない。適格請求書が発行できるよう免税事業者は「課税事業者」にならなければ課税事業者からの取引停止や消費税分相当の値引きを求められる可能性がある。
一方で課税事業者に登録すれば税負担は1事業者あたり年間15万円程度増になるとされる。弱小零細事業者にとって事務負担増の影響も大きい。
今月から来年1年間は相次ぐ諸物価高騰が予定されることから、経済状況を踏まえても、立憲民主党や日本共産党など主要野党は実施の延期や廃止を求めている。
増え続ける社会保障費の財源確保を目指す狙いがあるが、政府はインボイス導入の一方で、自営業者らが加入する国民健康保険の保険料上限を来年度から2万円引き上げる。こちらは2年連続の引き上げ。また75歳以上の人が加入する後期高齢者医療の保険料も上限を引き上げる方向だ。消費税、国保、後期高齢者医療には徹底した「応分の負担」を進める。
一方で高額所得者や金融所得者、大企業に「応分の負担」を行う見直しを行わない。少なくとも、インボイス導入実施と同時に「所得税最高税率」「金融所得課税税率」「法人税税率」の引き上げは実施すべき。税の公平感が国民全体で共有できるようでなければ「弱い者いじめの自公政権」の謗り(そしり)を免れない。
収入が不安定な個人事業者やフリーランスに重くのしかかるインボイス制度。導入されれば「消費税課税事業者」が作成した請求書であることを証明する「登録番号」「適用税率と消費税額」「税率8%であれば、それが軽減税率対象品目であること」を逐一、請求書に明記する必要がある。
取引先が「免税事業者」であれば「適格請求書」を発行できないため、課税事業者は「仕入れ税額控除」の適用を受けられない。このため「課税事業者」になるよう求めたり、消費税分を引いた取引を求めることが予想され、立場の弱い免税事業者は応じるしかないことになる。
消費税は一時的に預かっている金銭に過ぎない。国に納めるのは当然だが、フリーランスや弱小零細の事業者は運転資金に回すことで廃業せず細々維持している現実がある。高齢者が一人切り盛りする商店ではインボイス制度開始とともに廃業、閉店が多発することが危惧される。商店街にシャッター店舗が増え、田舎から貴重な商店が消えることになりかねない。
政府は経過措置として来年10月から3年間は免税事業者からのものでも仕入れ税額控除「80%」を認め、26年10月から「50%」認めるとしているが、29年10月からゼロになる。
7年後には、さきの問題がより顕在化する。景気動向と弱小零細の免税業者の実態をよくよく見極めて、導入の可否や時期について再考することが必要だ。電子インボイス導入を支援する補助金制度の創設も必要だ。
加えて、消費税の軽減税率の在り方も再考すべき。現況の物価高、特に電気・ガス・水道料、食料品をはじめとした暮らし直結の諸物価高騰を踏まえれば、軽減税率はイギリス並みに「食料品・新聞・雑誌・書籍・医薬品」は「ゼロ税率」に、「家庭用燃料や電力」は「5%」にすることを検討すべき。
同時に「税の公平」から「所得税」「法人税」の在り方を見直すこと。消費税は1989年導入時の税収3.3兆円から2021年には21兆9000億円と6.6倍に膨れた。一方、法人税は19兆円から13兆6000億円と逆に減少。所得税も21兆4000億円と89年時と同額。国全体の税収から考えれば、消費税増による税収が法人税や所得税の減収の穴埋めに使われているとしか言いようがない。大企業の法人税は「28%」に戻すべきだろう。
税収のトップが消費税。インボイスでさらに拡張することになる。くどいようだが「所得税最高税率」「金融所得課税税率」「法人税税率」の引き上げを同時に実施すべき。政府は真摯に検討し、実行するよう求めたい。(編集担当:森高龍二)