岸田文雄総理は10日開いた「新しい資本主義実現会議」で、労働市場の流動性を高める環境づくりに強い意欲を示した。
岸田総理は「企業側には経験者採用を進めていくために、個々の企業の実情に応じ、(年功型職能給から)日本型『職務給』への移行等の賃金の在り方を検討いただきたい」と促した。
年功型職能給から職務給への移行は経団連が求めてきたもので、経団連などが従来から年功賃金、長期雇用をやめ、賃金は職務給に、雇用に関して金銭補償で解雇できるよう規制緩和するよう求め、そのため労働市場の流動性を高めるよう働きかけてきた経緯がある。
岸田総理はこの日の会議で「企業間の労働移動の円滑化、リスキリング(労働者の技能・技術の学びなおし)、構造的賃金引上げの議論をキックオフした」と述べ「来年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめる」と述べた。
そして「6月の指針に向けては労働者に成長性のある産業への転職機会を与える労働移動の円滑化、リスキリング、構造的賃金引上げの3つの課題に同時に取り組む」とした。
岸田総理は「構造的賃金引上げを行うため、労働者の立場に立って、企業間・産業間で労働移動したい方は円滑に移動できる労働市場を作り上げる。これは同一企業内にとどまる労働者についてもメリットが及ぶ」との認識を示した。「労働移動したい方」としているが移動したくない人も移動せざるを得ない状況に追い込まれるリスクもある。
岸田総理は労働移動について「労働者本人の意思を尊重する市場となるよう、労働者が転職・キャリアアップについて相談し、正確な情報を得て転職する、という一連のプロセスを一気通貫で支援する仕組みを官民協力して作り上げる」と強調。
「労働者自身が主体的にリスキリングの在り方に関与できるよう、企業が支援する体制を整え、政府が支援を行うに当たっても個人への直接支援を強化する」とした。雇用側と被雇用側(労働者)が対等な関係性で関与できるのか、現実的な担保が問われそう。
また「労働政策として、失業者に対する支援と共に在職者に対する支援や兼業・副業の促進を強化する」とも語り、兼業・副業で一時的に所得は増えても労働環境がより厳しくなることも考えられる。「成長と分配の好循環、構造的な賃金引上げへの環境づくり」としながら、新しい資本主義の実態が経団連注文通りの環境づくりになりつつある。(編集担当:森高龍二)