「東京一極集中」という言葉が日常的に使われているが、この現象は、欧米諸国にとっては非常に珍しい。1950年以降の世界各国の首都圏人口は、ロンドンやニューヨーク、ローマやパリなどが横ばいなのに対し、東京のグラフは1950年からずっと、順調に右肩上がりを示している。これは日本の大阪圏、名古屋圏と比べても同様の結果だ。資本や人材が集中し、経済活動がより活発になる反面、今回のコロナ禍のような感染症や、自然災害に対する脆弱性が指摘されている。これらの問題に対して、政府も危機感を募らせている。
昨年の12月、政府は、地域活性化の新たな5カ年計画「デジタル田園都市国家構想総合戦略」案を公表した。5年間に実施する施策と数値目標を明記し、東京圏の転入超過を27年度に解消することを目指している。これに先駆けて、地方自治体の個人・企業に対する受け入れ態勢も充実しており、国と地方の双方で対策を打ち出している状況だ。この状況に、個人のみでなく、本社の移転や、本社機能の移転などを促進させている企業が増えてきている。
タイヤ製造販売大手である日本ミシュランタイヤは、本社を群馬県太田市にある主要開発拠点「太田サイト」に移転することを発表した。移転理由として、ワークライフバランスとより健全な財務ベースの両立を挙げており、タイヤビジネスを超えた、新たな価値創造に向けた改革を推進していくそうだ。これには太田市や群馬県側も歓迎ムードであり、必要なサポートと連携を強化するそうだから、今後の展開が楽しみだ。
次に資産管理の専門銀行として注目されている日本カストディ銀行は、2023年2月、本社機能の一部を岡山に移転する計画を発表した。移転先として指名された岡山は、自然災害リスクが低い都道府県として有名で、万が一の際のリスク分散の観点からも、岡山という選択はしっくり来る。高速道路や新幹線などのインフラも整備されている点も、移転先として人気が高い要因であろう。
木造注文住宅を手がける株式会社アキュラホームも、本社を東京からさいたま市へ移転を予定している。それに伴い、住宅建築の普及資材、工法、施工により「普及型純木造ビル」の新社屋「純木造8階建てビル」を建築しており、2024年に完成予定だ。都心に比べ、これまでと同等の費用で、オフィス面積は 8 倍以上となるという。木造ビルは脱炭素社会の実現のため注目されており、本建築では一部に埼玉県産材使用し、木の魅力が存分に感じられる空間になるとのことで、完成が待ち遠しい限りだ。
人口を一部から分散させるためには、分散する先での雇用が重要になってくる。移転だけを推進しても、その土地で働いて、生活を営むことは難しい。そういった観点からも、企業が地方へ本社移転をするというのは、非常に良い取り組みなのではないだろうか。政府の対策と共に、民間企業の今後の展開にも期待していきたい。(編集担当:今井慎太郎)