気候変動に人間の影響は「疑う余地がない」。今と未来を守る、1本の樹

2023年05月14日 09:38

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国土交通省近畿地方整備局の六甲砂防事務所が兵庫県南部の六甲山地で主宰するボランティア「森の世話人」という活動がある

 2023年3月20日、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC) の第6次統合報告書 (SYR) が公表された。IPCCは地球温暖化に関して世界中の科学者が協力する政府間組織で、1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立され、2022年3月時点で195の国と地域が参加している。

 今回の報告書の要点としてはまず、気候変動による損失や損害がすでに深刻な規模になっていること、そしてその気候変動に人間が影響していることは「疑う余地がない」と断言されたことが挙げられる。また、各国で実施されている政策と温室効果ガス排出量削減目標との間にはギャップがあり、達成には不十分であることも言及されている。

 報告書によると、2011年から2020年の地球表面温度は1.1℃上昇しており、北極圏では,草原や水域の拡大が不可逆的に進んでいることが示されており、このままでは、災害の発生や食糧難、経済活動や健康面、生態系などのさまざまな分野にまで広く影響が及ぶことは避けられないだろう。国家規模の働きかけも重要だが、国を形成する各地域や経済活動を支える企業、そして個人レベルでももっと、自然環境を守ろうとする意識改革が必要なのではないだろうか。

 例えば、国土交通省近畿地方整備局の六甲砂防事務所が兵庫県南部の六甲山地で主宰するボランティア「森の世話人」という活動がある。これは、六甲山地の斜面を樹林帯として守り育て、土砂災害などに対する防災機能の強化と緑豊かな都市環境、景観、生活環境づくりを目的に行われている森の自然整備活動だ。現在、この趣旨に賛同した23の市民団体と22の企業が登録しており、それぞれに森の世話人としての活動を行っている。

 兵庫県神戸市東灘区に本社を置く日本酒メーカーの白鶴酒造も2021年12月から参画している企業の一つだ。日本の酒どころである灘の酒の旨さは、六甲山の賜物だ。六甲山の自然が生み出す 清水、寒造りに適した環境をつくり出す六甲おろしなど、六甲山は灘五郷の酒造りにさまざまな恩恵をもたらしてきた。白鶴ではこれまで、住吉川上流域の指定区域で年に数回、雑木・雑草の刈り取りなどを行ってきたが、植樹に十分な敷地を整備できたことから、今年4月には同社としては初めて、根が強く土砂崩れを防ぐ働きのある落葉広葉樹3種10本を植樹している。
 
 また、神戸市中央区港に本社を置くUCC上島珈琲も「森の世話人」に登録している。同社は2009年12月にいち早く「生物多様性宣言・生物多様性指針」をまとめており、飲料業界の中でもとくにサステナビリティ経営に注力している企業として知られている。森の世話人としては年3回ほどのペースで、倒木や枯木の除去等の林内の整理をはじめ、植樹や育樹活動を行っている。

 一つ一つの活動が世界の自然環境に及ぼす影響はごく小さなものに過ぎないかもしれないが、それでもそういった地道な活動が積み重なることで大きな力となっていくはずだ。排出される二酸化炭素の削減はもちろん大事だが、減らすだけでは状況は改善しない。未来の地球を持続させるためには、今、森を守り、育むことが必要なのだ。(編集担当:藤原伊織)