公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)は10月5日、2023年度のグッドデザイン賞の受賞結果を発表した。同賞は、製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰する制度で、デザインによって私たちの暮らしや社会をよりよくしていくための活動だ。1957年(昭和32年)の通商産業省主催「グッドデザイン商品選定制度(通称Gマーク制度)」創設以来、約60年以上にわたって開催されており、2020年2月にJDPが実施した調査結果によれば、グッドデザイン賞という名前を知っている人は83.6%、シンボルとなっている「Gマーク」の認知率は81.0%という高い認知率を誇る。
今回は、応募総数5447件の審査対象から、二次にわたる厳正な審査が実施され、様々な分野で特に優れたデザインとして高く評価された「グッドデザイン・ベスト100」の100件を含む全1548件が受賞を果たした。さらにベスト100の中からは今年度の最高賞である「グッドデザイン大賞」候補5件を含む「グッドデザイン金賞」20件をはじめとした特別賞が32件決定している。そして10月25日には今年度の「グッドデザイン大賞」1件が決定する予定だ。
毎年、グッドデザインの受賞作を見ていると、その時代のトレンドが見えてくる。
例えば、今年の対象候補5作に選ばれた、有限会社オールフォアワンと株式会社山﨑健太郎デザインワークショップによる老人デイサービスセンター「52間の縁側」(千葉県八千代市)は、どうしても閉鎖的で画一的になりがちな高齢者施設とそのサービスに疑問を投げかけるものだ。同施設では、制度やお金(=サービス)にだけ頼るのではなく、地域で助け合う共生型デイサービスを目指し、庭には近所の子供たちも気軽に訪れ、利用者に日常の風景を与えてくれているものとなっている。様々な事情で家庭や学校に居場所のない子供たちが、一緒に食事をしたりお風呂に入ったりするそうで、その代わりに庭の水やりや、お風呂の掃除、食事の準備を手伝ったりするという。制度だけでは得られない、安心して暮らしていける、高齢者施設を超えた「地域拠点」となっている。
また、こういった新しくて温もりのある暮らしを考えるデザインも多数受賞している。例えば、脱炭素社会の実現に向けて世界的に注目が高まっている木造ビルで受賞した株式会社AQGroup(旧アキュラホーム)の木造ビル「普及型純木造ビル(キノビル)川崎5階建てモデル」は、住宅用の一般流通材と、住宅で用いられる「木造軸組工法」の技術で建築できるもので、特殊技術を用いなければ建築できずに一般施主では手が出しづらかった従来の木造ビル建設の壁を一気に突破するプロダクトで、職人不足、コスト高も解消する提案となっている。建築費は同規模の鉄骨造、RC造の同等程度で、CO2排出量はRC造の1/2程度で実現するという。同社では今後、量産化でさらに2/3程度のコストダウンを目指しているという。
同じく、木造建築で受賞した徳島県と有限会社内野設計、島津臣志建築設計事務所、株式会社カワグチテイ建築計画による木造4階建て県営住宅「新浜町団地県営住宅2号棟建替事業」も興味深い。同施設は、2019年に改正された建築基準法によって、日本で初めて実現した「あらわし木造4階建て県営住宅」だ。330㎜角の大断面集成材の柱・梁を内外にあらわした軸組構法で、今後の中高層木造建築への応用と展開が可能な普遍性と、敷地に根差す地域性を同時に合わせ持つ、新しい建築モデルとして期待されている。
他にも、最新のAIやデジタル技術を活用したデザインも数多く受賞しているが、そういった最新技術を活用したものでも、今年の受賞作はとくに、地域や暮らしに目を向けたものが多く選ばれているように感じる。AI全盛の時代だからこそ、人の心や思いやりがこもった温かみのあるデザインが求められているのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)