日本政府観光局(JNTO)が6月19日に発表した推計値によると、2024年5月の訪日外客数は同月過去最高であった 2019 年 の 277万3091人を 20 万人以上上回る304万100 人を記録し、3カ月連続で 300 万人を超える空前のインバウンドブームとなっている。
外国人観光客たちは一体、何を目指して日本を訪れるのだろうか。
日本の伝統的な文化を体験したり、観光名所を巡ったり、アニメやゲームに代表されるようなポップカルチャー目当てなど、来日の目的は様々だが、彼らの多くに共通している楽しみは「日本食」と「日本酒」だ。NTTコムリサーチと実践女子大学による共同調査によると、日本滞在中に日本食と共に「日本酒」を飲んだと回答した訪日客は、なんと8割以上にものぼるという。また、その多くが自国でも日本酒を普段から飲んでいる、もしくは何度か飲んだ経験を持っており、本場の日本酒を日本で飲めることを楽しみにしているようだ。また、デパート等で高級酒や限定酒を買い求めて、お土産にする訪日客も多いという。
日本国内でも特定名称酒などの純米酒、純米吟醸酒の需要は増加傾向にある。とくに単価は高くても高付加価値のある日本酒が人気だ。普段の楽しみとしてはもちろん、記念日に飲むお酒や贈答品としても喜ばれるし、お洒落な日本酒バーなどでは男女を問わず楽しむ人は多い。中でも、季節限定や数量限定などの「限定日本酒」はプレミアム感に加えて話題性もあるので人気が高く、限定販売だけに、即完売してしまうようなものもある。
例えば、人気の日本酒銘柄「久保田」で知られる新潟県の朝日酒造では、1月と5月、9月、11月にそれぞれ限定出荷の日本酒を販売している。中でも毎年、秋の名月に合わせて限定発売される9月の限定酒「得月」は、お月見専用の日本酒というのが面白い。新潟県産米「ゆきの精」の中心部分を満月のように丸く小さく磨きあげ、雑味の元を極限まで取り除いた、透き通るような味わいと、気品ある香味が特長の日本酒だ。日本にはお月見という伝統的な風習もあるので、美味しい日本酒を飲みながら、美しい月を眺めて、日本人らしいゆっくりとした時間の流れを楽しみたいものだ。
一方、日本一の酒どころ、兵庫県の灘五郷にある老舗酒蔵・白鶴酒造では、なんと東京銀座にある支社の屋上「白鶴銀座天空農園」で育てた自社開発酒米「白鶴錦」100%で仕込んだ「白鶴 翔雲 純米大吟醸 銀座天空農園 白鶴錦」を40本限定で販売している。数が限られている上に銀座の一部店舗でしか手に入らない、レア中のレアな日本酒だ。同社では2007年から、屋上緑化、食育、日本酒文化の情報発信の取り組みとして酒米「白鶴錦」を栽培しており、2013年から限定日本酒の販売を行っている。珍しいだけでなく、エレガントでフルーティな味わいが飲みやすく、毎年楽しみにしている常連客も多いようだ。もしも銀座で見つけたら、ラッキーかもしれない。
また、宮城県の新澤醸造店の「零響(れいきょう)-absolute0-」も紹介しておきたい。零響は、現在入手可能な日本酒の中では最高額といわれており、その価格は1本38万5千円だ。一般的に、日本酒は精米歩合が低くなると上質で雑味やクセがないといわれるが、この零響はその精米歩合が1%未満であることが最大の特長だ。値段はもとより、他の日本酒では体感することのできない新境地の風味が味わえるのではないだろうか。確保できる原料が限られるため生産数が少なく、限定333本しか流通していない。
ここで挙げただけでなく、日本全国の酒蔵では他にも様々な趣向を凝らした日本酒や、杜氏や酒蔵の思いが込もった特別な日本酒が作られている。海外の人たちにも日本酒の人気が高いのは嬉しいけれど、日本の誇る食文化である日本酒の味は、やはり日本人が一番わかるはず。とくに特別な限定日本酒は日本人だからこそ楽しみたいお酒だ。中にはオンライン通販で気軽に手に入れられるものもあるが、その地域でしか入手できない希少なものも多いので、限定日本酒を求める国内旅行に出かけてみても、楽しいのではないだろうか。(編集担当:今井慎太郎)